最終回 豊川事件について考える 4

2000年5月に愛知県豊川市で発生した高校生による殺傷事件(以下、豊川事件と呼びます)について取り上げるシリーズの4回目です
事件の詳細はまとめサイトがありますのでそちらを御覧下さい


話を進めるにあたって、月刊「正論」に掲載された長谷川潤の小論を叩き台として使わせてもらっています

この小論の全文は以下のサイトで読めます

さて今回は長谷川論文についてまとめてみたいと思います
まず「平成九年の夏、神戸事件が発覚した時に、現代っ子の心理に疎いマスコミは犯人の心理を全く理解できなかった」と長谷川は第二節の冒頭に書いているのですが、教師として生徒に接している自分は現代っ子の心理をよく理解していると自負しているからこそ、こうした書き出しを冒頭に据えたのでしょう
しかし、その後の論旨を見れば長谷川が生徒の心理にまったく関心がなく、理解しようとの姿勢すら欠如していることが露呈しています


共感度とも言うべき同年代の心理を測定するには、「わかる」という言葉が意味を持つ。二百名近い男女生徒に「よくわかる」「なんとなくわかる気がする」「あまりわからない」「まったくわからない」の四項目で設問したところ、「豊川事件」、「バス乗っ取り事件」共に、「よくわかる」が男女各一名、「なんとなくわかる気がする」が十七名であった。


アンケート調査というのは一見便利な方法ですが、「よくわかる」と回答した生徒がどれだけの共感をしているのかはアンケートでは掌握できません。ましてや「なんとなくわかる」と回答した生徒がどれだけの共感を持っているのか、分かるはずもありません
つまりこのアンケート調査などまったく価値がないのです。こんな手段で生徒の心理を掌握していると自負されたのではたまったものではありません
豊川事件では犯人の少年の両親が早くに離婚しており、養育は祖父母が担当していました。こうした生育環境についても長谷川はまったく考慮せず、「ワガママ」だと切り捨てます
また、事件では少年がアスペルガー障害であったという事実が話題になったのですが、長谷川はそれも無視しています
しつこく書いていますがこうした長谷川の態度こそ、学校の教師にしばしば見られる独善的な教育者像だと感じています
自閉症や注意欠陥多動障害などの発達障害をもったこどもの親はしばしば学校へ足を運び、こどものかかえる症状とそれへの対処方法について申し入れをするのですが、教師の側にはこうした申し入れをまったく受け付けない人がいます
「自閉症であろうと注意欠陥多動障害であろうとあくまで自分流の教育を貫く」との考えに凝り固まった教師です
個々の生徒の事情、心理などは無視し、「この教室ではオレ様がルールだ」といわんばかりの態度で振る舞うのです
そうした考えの教師が実在する背景には教育学独自の思想が影響しています
すなわち生徒とは空っぽの器であり、そこへ教師が教育によって知識を注ぎ込むのだという思想です。生徒が自発的に考え、学習するという思想上の前提は学校教育に存在しません
総合学習など、生徒の自発性を涵養するカリキュラムはありますが、あくまで教師がお膳立てしたプログラムの中で目標達成を目指すものであり、教育指導要領と教育課程でガチガチに固められているのです
そして閉鎖的な学校の中の、さらに閉鎖的な学級の中で教師は独裁者のごとく君臨し、決定権を行使します
長谷川は学校教育の現状を批判していますが、教育学の思想を体現した典型的な教師の一人なのだな、とつくづく感じます
そんな教師が書いた豊川事件に関する論文は、偏見と予断に満ち、事件の結果だけに目を奪われて。事件の意味を問うことすら見失った迷走の産物です。事件と向き合おうとせず、犯人の少年とさえ向き合おうとはしていません
豊川事件について語っているのではなく、まったく別の次元の何かについて語っているのです
長々と書きましたが、つまらない結論で恐縮です

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