学習塾殺人事件を考える2 アスペルガー障害と殺人の関係

この事件を語る上で最大の関心事は、女の子を殺害した塾講師がアスペルガー障害であったとして、それがどのように殺人と結びついたのか、という点です
最近の事件報道では、犯人が広汎性発達障害だとかアスペルガー障害だとか明かされるものが目につきます
しかし、広汎性発達障害だから殺人を犯すわけではありませんし、アスペルガー障害であるから殺人を犯すわけではありません
犯人の人格の一部として広汎性発達障害とか、アスペルガー障害といった症状を抱えているという背景説明であって、犯行の原因ではないのです
ですから、広汎性発達障害という症状を抱えた人物がなぜ殺人事件を起こすに至ったのか、その行動に潜む力動を明らかにしなければ事件について十分語ったとは言えないのです
あいち小児保健医療総合センターの杉山登志郎先生(精神医学)が「アスペルガー障害の現在」という文を書いています


この中で注目すべきは、「国際医学雑誌に掲載されたアスペルガー症候群による殺人の報告は3例に過ぎず、毎年のように生じている現在の日本の状況はやはり異常だといえる」と指摘している部分です
毎年のように生じているどころか、現在では年に十件くらい、アスペルガー障害だの広汎性発達障害だのと判決や精神鑑定で指摘されるくらい、頻発しています
本件、進学塾講師だった同志社大学法学部の学生も中学生の頃は成績優秀で、同志社の付属高校から同大学へと進学しています。が、中学時代から家庭内暴力が始まり、母親が救急車で病院に運ばれるくらい暴行を加えたこともあったと報道されています
そんな異常な行動も、成績優秀という部分に目を奪われ見過ごされてきたのかもしれません。学校の成績がよいというそれだけで、問題行動に目をつむってしまう愚かな判断が、大学生になってからの強盗事件につながり、さらには殺人事件に結びついたとも言えます
萩野受刑者には通院歴があったようですが、どのような治療をどれだけの期間受けていたのか判然としません
上記の杉山登志郎先生の指摘にあるように、中学から高校にかけて適切な治療を受ける機会があれば(本人が治療を拒否しなければ、という条件が加わりますが)、アスペルガー障害であったとしてもある程度の社会適応能力を身につけられる可能性はあったのではないか、と思うのです
塾に通ってくるこどもたち相手に萩野受刑者は、それこそ友達感覚で接し、塾講師らしいけじめのある態度もなく、悪ふざけを繰り返していたように見えます。おそらくそれ以外の接し方を萩野受刑者はできなかったし、思いもつかなかったのでしょう
1人の女の子から拒絶され、抵抗され、敵視されたとき、萩野受刑者は対人トラブルを乗り越える術を持っていないため混乱し、絶望し、自分の全存在を否定されたかのような怒りを感じ、相手への敵意を募らせたのではないでしょうか?
自分の意のままにならない日常のささいな出来事に対処できず、我慢もできず、物を壊したり、母親に当り散らすように、怒りを直接行動で表出する以外に選択肢を持たないのだと、考えられます
判決ではある種の被害妄想に萩野受刑者がとりつかれていたと認めています
しかし、それでもすべてが説明できるわけではありません。疑問は幾つも残ります
そして萩野受刑者自身、この事件の意味をどうとらえ、理解し、自分の行動のどこを改めるべきなのか、熟考してもらいたいものです

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