芥川賞受賞作 朝吹真理子「きことわ」を読んで

月刊文藝春秋の3月号は発売になっています。朝吹真理子の受賞作「きことわ」が掲載されているので、早速購入し読みました
目に付くのは、会話の部分が少なく、地の文がやたら多いところです
最近の小説は会話でストーリーを展開させる書き方が主流になっており、会話以外の状況を説明する地の文が少ないのが当たり前になりつつあります
ところが、「きことわ」は地の文がやたら多く改行もほとんどないため、随分と長い文章を読まされている気がします
そのため文体は軽やかですが、随分と長い物語のように感じてしまいます。読者にそう感じさせる意図が作者にあったのかもしれません
2人の女性の少女時代から中年に至った現在までを、繊細な感覚と筆致で描いたのは分かりますが、そこにどこまで魅力を見出すかは読者次第なのでしょう
さて、文藝春秋には芥川賞の選考委員のコメントが載っています
石原慎太郎は、「プルースト」に似ていると指摘するものの、それ以上多くは語ろうとはしません。好みの小説ではなかったのでしょう
村上龍は、表現は巧みであるがテーマが不在だと指摘します。小説として重要なのは技巧ではなくテーマであり、「きことわ」は何を表現したかったのか不明だとの意見です
池澤夏樹は長文で「きことわ」を絶賛し、時間の巧みに描いた手法を評価しています
山田詠美は作品世界の心地良さに無条件で身を委ねられる、と「きことわ」が大いに気に入ったようです
語り口の巧みさ、構成の上手さを誉めるものの、テーマが不在だと指摘もあり、審査
の場で議論があったのだろうと推測されます
議論の結果がどうであったのかはともかく、この作品を芥川賞に押す意見が大勢を占めたのは、やはり候補作品の中でも完成度が図抜けて高かったからなのでしょう
毎日新聞では丸谷才一の書評を掲載しています

丸谷才一・評 『きことわ』

物語上の時間の経過(記憶の変容)をどう受け止めるかは読者次第ですが、自分としては丸谷才一の評価には同意しかねます
「きことわ」に一読の価値ありや否やと問われると答えるのが難しいところですが、次回作が出たならそれと併せて読む方がベターかな、と思います
この作品だけで朝吹真理子を評価するのは難しく、一発屋で終わることなく書き続けたなら、豊穣な世界を拓いてくれるのかもしれません。あるいは技巧倒れで終わる危険もあります
もう1つの受賞作品、西村賢太の「苦役列車」も読みましたが、こちらもコメントしにくい小説です。社会の底辺で生きる日雇い労務者の青年が主人公の物語ですが、これが面白い小説なのかと問われれば返事に困ってしまいます
よく書けてはいますが、「だからどうなんだ?」との疑問が残ります。太宰治が肉体労働者であったなら(そんな可能性を考える事自体、荒唐無稽ですが)、こんな物語を書いたのだろうな、と思います

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