「死刑囚の素顔」と題する本の功罪 ドキュメンタリーの嘘

J-CASTニュースの配信記事で、堀川惠子著「裁かれた命 死刑囚から届いた手紙」(講談社)を紹介しています
堀川惠子はドキュメンタリー作家で、「死刑の基準―『永山裁判』が遺したもの」により「第32回講談社ノンフィクション賞」を受賞しており、死刑問題に見識を持った人物です

28歳青年「極刑」は妥当か 手紙が語る「死刑囚」の"素顔"

まだこの本を読んではいないのですが、記事の論調からして、「また、あれか」と思ってしまい当ブログで取り上げようと決めました
永山則夫の事件については前にも当ブログで取り上げたところですが、その悲惨な生い立ちが強調された結果世間の同情を集め、「(犯行時)未成年者であった者に死刑を科して良いのか?」との議論が巻き起こりました
その裁判で示されたのがいわゆる「永山基準」とされるものです
死刑判決を下すための要件を細かく示す、その後の裁判の模範とされてきました
永山規準は、(1)犯罪の性質、(2)動機、計画性など、(3)犯行態様、執拗(しつよう)さ・残虐性など、(4)結果の重大さ、特に殺害被害者数、(5)遺族の被害感情、(6)社会的影響、(7)犯人の年齢、犯行時に未成年など、(8)前科、(9)犯行後の情状の9項目を挙げ、これらを考慮し、刑事責任が極めて重大で、犯罪予防などの観点からやむを得ない場合には、死刑の選択も許されるとしたものであり、世間の同情を集めた永山則夫に死刑を言い渡すために設けられた方便ではないか、と自分は感じます
そして話をこの長谷川武死刑囚に戻すと、40歳の主婦をナイフでメッタ刺しにして金を奪う事件を起こし、死刑判決を受けた事件であり、被害者は1人ですから永山基準に反して死刑を言い渡されたケースだと堀川惠子は言いたいのでしょう
さらに上記の本では長谷川死刑囚の生い立ちを丹念に取材し、永山則夫のような悲惨な生い立ちを克明に描き出しているようです
ですから、この本の狙いは最初から「死刑が執行された長谷川死刑囚はそんな悪い人ではなかった」と読者に思い込ませるところにあり、同情を買うため一方的な視点から書かれたドキュメンタリーなのでしょう
そして本では元死刑囚から事件を担当した検事に宛てて書かれた手紙を紹介し、長谷川死刑囚の人間味を強調し、「死刑に値する人間だったのか?」との思いを読者が抱くように仕向けてあると推測されます(まだ読んでいませんので、勝手な憶測です)
これまでにも当ブログで何度か言及しましたが、ジャーナリストや作家が残虐非道な事件を起こして死刑を求刑されている被告人と面会したり、手紙をかわして、本を書くケースがたびたびあります
その多くは、面会や手紙のやり取りによって死刑囚の本音を聞き出し、「この人はそんなに悪い人間ではない」とする思い込みに支配されてしまい、とても公平な視点から書かれているようには見えない内容になっています
精神分析ではこれを「転移」という概念で説明します
相手に対する思い入れから、知らず知らず相手の考えにとらわれ、その代弁者であるかのように振る舞ってしまう現象です
こうして死刑囚を殉教者、受難者のごとく祀り上げるドキュメンタリーが出来上がってしまうのです
長谷川死刑囚の生い立ちに同情すべき点があれ、彼が40歳の主婦をナイフでメッタ刺しにして殺害し、金を奪った事件は事実であり、その罪が軽減されるものではありません。その他、複数の事件にも関与しています
ところがこの手のドキュメンタリーは罪を問うのではなく、ひたすら死刑囚の人間味を強調し、読者の視点を事件から逸らす方向へと誘導するのです
長谷川死刑囚の手紙に何がどう書かれていようと亡くなった被害者を生き返らせることはできませんし、彼の罪は消えないのです
永山則夫のような犯罪者を「社会の犠牲者」であるかのように表現するのは大きな誤りです。永山則夫によって殺害された4人の犠牲者の家族が、その後どのような思いで生きたのか、この手のドキュメンタリーでは触れようとしません。せいぜい、永山則夫が獄中で書いた手記の印税を遺族に贈ったのを美談として紹介する程度です
永山則夫が受難者として持ち上げられ、同情を集める一方で、事件の犠牲者たちは忘れ去られ同情も得られずひっそりと生きるしかなかったという事実を、ジャーナリストや作家は無視しているわけです

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