木嶋佳苗事件、東電OL事件を語る作家佐野眞一

世間の耳目を集める凶悪事件が発生すると、ジャーナリストや作家が取材に取り組み、裁判を傍聴し、あるいは被告と面会したり手紙をやりとりしてルポルタージュを出版します
そんな営為を批判する気は毛頭ありませんが、ジャーナリストや作家の中には最初から冤罪だと決めてかかって取材をする人もいます。あるいは、猟奇的な犯行に及んだ犯人をよく理解できないまま原稿を書き進め、犯人像を掴みそこねたまま出版に至るケースもあります
前振りが長くなりました
今回は作家佐野眞一が結婚詐欺殺人犯木嶋佳苗について語った記事を取り上げます

作家・佐野眞一氏 木嶋被告を「史上最強の女犯罪者」と評す

佐野眞一は東電OL事件を取材したルポルタージュで有名です
しかし、「東電OL事件が起こったのが15年前ですよね。この間のアナログ社会からデジタル社会への変遷が、ふたりの“身体性”に現れている」と語り、木嶋佳苗をデジタル社会が生み出した毒婦だと評するのには苦笑するしかありません
デジタルとアナログという二元的な比較論などまったく汲むべき価値のない与太話であり、およそ核心から外れた発想です
デジタルだのアナログだの、いくら語ったところで事件の核心にはたどり着けないのですから
木嶋佳苗の裁判を傍聴しても、彼女の身体性が感じられないと佐野眞一は指摘し、判決文も薄っぺらだと批判します。しかし、裁判は演劇ではありませんし、判決文は小説ではありません
裁判から何も見いだせないとすれば、見いだせない作家の方に問題があると言えます
佐野眞一は「東電OL事件」を書くにあたって、殺害された被害者女性の奇矯な行動(東京電力に勤務する女性が毎晩のように売春婦まがいの行動を繰り返していた)が理解できず、精神科医の許を訪ねレクチャーを受けたそうです
つまり、精神医学や心理学についてはあまり素養がないのでしょう
記事の中でも、「木嶋にもファザコンの気があったというけど、そう決めつけるには材料が足りない。虐待などの過去のトラウマによって犯罪に走った可能性も彼女は示唆しているけど私はそうは思えない」と発言しており、ファザーコンプレックスという概念をきちんと理解しているのかは疑問です。世間一般的なファザコンをイメージして発言しているようにしか見えないのです
ファザコンと言えば、「大人になっても父親にベタベタ甘えている女性」とのイメージが世間にはありますが、本当のファザーコンプレックスとはそんなものではありません
東電OL事件では被害者女性が拒食症に苦しんでいたとの病歴があります。思春期の拒食症は決して痩身願望や無理なダイエットが原因ではなく、近親相姦願望とその罪悪感との葛藤が原因である精神分析では考えます(それだけがすべてではありませんが)
してみれば、東電OL事件の被害者の奇矯な行動も十分に説明ができるのです
木嶋佳苗の場合、実父との間でファザーコンプレックスが形成されていたのではなく、母親と祖父との関係を投影した複雑な形の葛藤があったのではないかと考えられます
木嶋佳苗が先に公開した手記でも、母親について深く語ろうとはしていません
また、木嶋佳苗の母親も娘については語ろうとせず、取材を拒否したままです
この親子の関係を見れば、根深い葛藤が存在している可能性は十分に考えられるわけで、ジャーナリストや作家ならばそこに踏み込むべきでしょう
それをせず、裁判を「フラットでリアル感が欠落していた」と批判するのは何とも見当違いな行動です

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