「ドラえもん亡国論」という暴論

誰もが知っているマンガを題材に掲げ、社会問題を論じるという手はよく使われます。適切に問題を切るのであれば説得力があるものの、外すととんでもなく幼稚な主張になってしまいます
ダイヤモンド・オンラインのサイトに掲載されている「ドラえもん亡国論」を読んで、論者のダダ滑りになった主張があまりにも痛々しく感じられたので紹介します

「ドラえもん亡国論」 将来のリーダーシップを問う

突っ込みどころだらけの論考です。まずどこから始めればよいのか、と戸惑うほどあちらこちらが破綻しています
「小学2年生国語の教科書には、『あったらいいな、こんなもの』という単元がある。子どもたちが、想像力を働かせて考えた夢のアイデアを人前で話し、それをお互いに聞き合うことを意図している」のだとして、そこからドラえもんのような便利な道具を簡単に手にできるようになれば、「苦労をしても、新たな価値観を創造したり、自ら道を切り開いていく力強さはなくなってしまう」と指摘します
しかし、小学校2年生の国語の単元に「日本を背負って立つリーダーシップ」やら気概を見出そうとするのは無茶な話です。国語の授業もそこまで高望みはしていません
それに「ドラえもん」は便利な未来の道具があらゆる問題を解決してくれるのではなく、便利な道具に頼ろうとするのび太が痛い目にあう、というのがお約束の展開です
論者は「ドラえもん」を読み誤っているわけで、話の振り方そのものを間違えていると言わざるを得ません
さらに、「2011年3月11日の大震災をきっかけにして、はっきりとわかってしまったことがある。それは、わが国にリーダーシップが欠如しているということだ」と重大な発見でもしたかのように書いています。何を今更・・・
論者がどのような人物なのかは知りません。が、おそらく「企業経営はいかにあるべきか」とか、「リーダーシップとは何か」など、空疎な経営論を専門にしている方で、マンガやアニメに関して一般人以下の知見しか持ち合わせていない人物と思われます
「亡国論」と言うなら、この論者の思考こそ壊滅的にグダグダだと思います
そこから論者はスポーツにおけるリーダーシップに触れ、さらに右脳型、左脳型という発想へと展開します
ここにも突っ込みたいところはあるのですが、割愛しましょう
そして結びの部分で論者は、いきなり「風の谷のナウシカ」を取り上げます


最後にもう1問。リーダーシップの強敵『ドラえもん』にも勝るほどの人気マンガのうちで、リーダーシップをモチーフにしたものはなんでしょうか?
答えは、『風の谷のナウシカ』(宮崎駿作 徳間書店)だ。風の谷のナウシカは、産業文明の衰退で残された環境破壊と、帝国主義と民族紛争と宗教対立が入り組んだ社会に立ち向かう。現代社会が直面しているありとあらゆる「どん詰まりの状況」が、このマンガのテーマとなっている。


ここで論者ははっきりと「このマンガのテーマになっている」と書いています。アニメーション版の「ナウシカ」と混同しているわけではなさそうなのですが、どう読んだら、「産業文明の衰退で残された環境破壊と、帝国主義と民族紛争と宗教対立が入り組んだ社会に立ち向かう。現代社会が直面しているありとあらゆる『どん詰まりの状況』」をテーマにした作品だと判断できるのか、さっぱり分かりません
確かに「風の谷」に住む古い部族のリーダーとして苦悩するナウシカが描かれているのですが、作品世界は現代社会の寓意として想定されているのではありません。「文明批判」というメッセージを抱えた作品と呼ばれることを、作者の宮崎駿は何より嫌っているのですから
「土鬼の僧正は、敵対する側にたつはずのナウシカのなかに、民を約束の地に導く使徒の姿を見る」のが作品のハイライトではなく、物語はそこからが佳境であり、腐海の役割と人類存続の計画という、とんでもない謀略をナウシカが暴くところへと物語は導きます。そしてナウシカは自らの判断で人類存続の計画を破壊してしまうのですが、それでも「蒼き清浄の地」という嘘をつく決意を固めて物語は終わります
リーダーシップを論じるなら、まさにその部分を取り上げるべきだと思うのですが、なぜか論者の心には響かなかったようです
そこから末文に至る「なでしこジャパン」が「青き衣」をまとっている云々は余談にもなりません
リーダーシップの不在を嘆くのは自由ですが、誰もが知っているマンガを読み誤ったまま適当に引用し、己の主張の根拠にするやり方は痛々しいばかりです

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