「安倍政権も日本社会もヤンキー文化」と説く斎藤環

精神科医の斎藤環の著作はこれまで数冊、読んでいます。その知見のベースには自分と同じラカン派の精神分析理論があるため、考え方に共通したものがあると言えます
しかし、東洋経済オンラインに掲載されている、「ヤンキー的な気合主義が蔓延している」とのインタビュー記事には、ちょっと驚かされるとともに考えさせられてしまいました
精神科医がその知見をもって社会批評を展開するのは珍しくないのですが、必ずしも正確に世相を切り取れるとは限りません

ヤンキー的な気合主義が蔓延している

桜宮高校での体罰問題から説き起こし、その背景にはヤンキー文化があるとの説明です
従来ならば、「日本は村社会だから」と説明され、「村の掟」なるもので縛られていると強調されていた部分を「ヤンキー文化」に置き換えただけの話です
それゆえ特に目新しい見解だとは思えません
が、メディアにとっては「安倍政権もヤンキー文化」だとするその切り口がウケたのか、大きく取り上げられています
アカデミズムで取り上げることもない「ヤンキー文化」を正面に据え、日本社会がヤンキー化していると断定するところが面白く、かつ斬新に映るのでしょう
しかし、斎藤環の説は「ヤンキー文化」を象徴するいくつかの事象を並べ、あたかも日本社会が「ヤンキー文化」で成り立っているかのような印象を与えるだけであって、その論旨は緻密なものではなく、自分には何の説得力も感じられないのですが
軍隊で気合や根性といった精神力が強調された背景は「ヤンキー文化」に由来するものではなく、日清・日露戦争当時日本人の体格は欧米列強に比べて大きく劣っており、貧弱な武装と体格差を補うため精神力を強調する以外に手がなかったからです
日露戦争時、突撃してしてくる日本軍の歩兵に対し、ロシア軍は機関銃を浴びせなぎ倒しました。にも関わらず、日本軍は歩兵による突撃を繰り返して死傷者を増やすだけで、有効な戦術を用いることはできませんでした
武器の近代化に精神力で対抗しようなどというのは荒唐無稽な話です。それこそB-29を竹槍で迎え撃とうとするのと同じです
貧しいがゆえに、劣っているがゆえに気合と根性を強調する以外に手がないというどん詰まりの発想こそ「ヤンキー文化」そのものだと言うなら、日本軍とヤンキーは同じ精神風土を共有しているとも言えなくはないのでしょうが
日本人論、日本社会論というのは数多く取り沙汰されるものの、どれも信用に値しないというのが自分の考えです。表面的な特徴だけを列挙し、日本人は◯◯だと決めつけたところで、そこから何も見えてはきません。所詮は居酒屋談義です

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