新幹線3人殺傷事件を考える 殺人の理由は?

走行中の新幹線車内で男性1人を殺害し、女性2人に怪我を負わせた小島一朗被告の公判が続いています
弁護人による被告人質問の様子を、毎日新聞は以下のように伝えています


走行中の東海道新幹線の車内で隣席の女性ら3人を切りつけて死傷させたとして、殺人などの罪に問われた小島一朗被告(23)の裁判員裁判は3日、横浜地裁小田原支部(佐脇有紀裁判長)で弁護側の被告人質問があった。小島被告は2人掛け通路側の座席を選択した理由を問われ、「窓際にいる人を確実に1人は殺せるだろうと思い、席を選んだ」と述べた。
小島被告は2018年6月9日夜、新横浜―小田原間を走る「のぞみ」車内で隣席の女性2人をなたで切りつけて負傷させ、助けに入った兵庫県尼崎市の梅田耕太郎さん(当時38歳)の首などを切って殺害したとされる。
小島被告は事件に至る経緯を問われ、刑務所に入るために事件を起こしたとした上で、死刑を避けることを目的に「殺害するのは2人までにしておこうと決めた」と述べた。新横浜駅を出発した後、事件を起こしたことについては「新横浜と名古屋の走行距離が一番長いので、この間でやろうと考えた」と語った。
公判では、男性車掌の証人尋問もあった。車掌の証言によると、乗務中に車両後方からパニック状態で逃げてくる乗客がいたため後方に向かうと、小島被告が梅田さんに馬乗りになって襲撃するのが見えた。車掌は「やめて。その人を助けさせて」と呼びかけたが被告は応じなかったという。
(毎日新聞の記事から引用)


十分に計画的な犯行であり、「人を殺して刑務所に入る」との目的に立って明確な殺意があったと認められます
「刑務所に入る」との考えは、小島被告が随分と前から語っていた人生設計で、「働かずに生きていける。それが刑務所だ。事件を起こして刑務所へ行く」と養父に語っていたと報じられています
前回も述べたのですが、この小島被告の認識は誤っており、日本の刑務所は独房で何もせず過ごす場所ではありませんし、人と関わらず孤独に暮らせる場所でもありません。何をもってそう思い込むようになったのかは不明です。が、他人の意見に耳を傾けたり、それを受け入れて理解する能力に欠ける小島被告にはどう説明しても無駄でしょう
収監された後、集団生活ができず大声を上げて暴れ出したり、職業訓練を拒否して懲罰を科せられたり、受刑者からも刑務官からも「めんどくさい奴」扱いされるのが目に見えます。つまり、刑務所で誰からも干渉されずのんびり暮らすなど不可能で、日々周囲と軋轢を起こし、処遇困難者として「生きにくさ」を味わうはずです。無期懲役なら最低でも35年は服役せなばならず、小島被告は仮釈放まで「刑務所の面倒な日常」から解放される機会がないと知り絶望するでしょう。刑務所内で自殺を図るかもしれません
さて、今回この事件を取り上げたのは小島被告について云々するためではなく、考えさせられる記事を発見したためです
当ブログでも過去に取り上げた豊川の老夫婦殺傷事件や、佐世保での女子小学生による殺人事件なとに触れる内容があるので、興味深く読みました。長文の記事なので、中身の引用はせず、タイトルとアドレスだけ貼っておきます

新幹線殺傷に見る誤診と誤解だらけの「発達障害と犯罪」 アスペルガー症候群を世に知らしめた少年殺人も誤診だった?

記事の中で引用されている昭和大学医学部精神医学講座主任教授・岩波明医師の著書『発達障害』(文春新書)はまだ読んでいませんので、早速読むことにします。ただ、岩波教授の指摘する「明らかな誤診や過剰診断も多い」との見解を鵜呑みにはできません
診断基準を厳密に適用し、他者とのコミュニケーション能力の程度を斟酌すれば、また別の診断を下せる可能性はあったのかもしれません
ただし、岩波教授は取り上げられている一連の事件で容疑者となった男女を直接は診断しておらず、報じられた情報や裁判資料のみを参照して私見を述べているのであり、直接精神鑑定を実施した医師にすれば誤診呼ばわりされて迷惑でしょう
記事を執筆した鳥集徹は文末で以下のように述べています

動機の分かりにくい凄惨な事件が起こると、私たちはどうしても理由を求めたくなり、精神疾患や発達障害があれば、それが問題だったのではないかと考えたくなります。けれども、精神鑑定や司法の判断でさえ、専門家から「間違いだ」と指摘されることがある。それくらい、犯罪者の心理や犯行の動機を解明するのは簡単ではないことなのです。
したがって軽々に理由を求めることよりも、まずは刑事司法での詳しい事実解明を待つべきではないかと思います。そして、このような境遇の人物の暴発を社会としてどう防げばいいのか──発達障害と犯罪を安易に結びつけるような予断を持たず、あくまで解明された深い事実に基づいて、議論を深めていくことが大切なのではないでしょうか。

発達障害だ、精神障害だと安易に決めつける傾向を警戒するべきであるのは確かにその通りです
ただ、「刑事司法での詳しい解明を待つべき」との見解には賛成できません。検察官も弁護士も裁判官も犯罪心理学や精神医学の専門家ではないのであり、踏み込んだ議論は期待できません。なおかつ裁判は検察官の立証に弁護人が反論し、どちらの主張に分がるか裁判官が判定する場であって、それが必ずしも真実の解明であるとは限らないのです。さらに裁判は事件処理という性質上、迅速に行われるべきであり、時間を湯水のごとく使って延々と議論する場ではありません
犯罪者の暴発を社会としてどう受け止め、防ぐかは刑事政策の問題であり、国会で議論すべき課題です(今の野党にそんな能力がないのは明らかですが)
筆者は刑事司法の場として個別の裁判ではなく、弁護士会と検察、裁判所が協議機関を設け、話し合えと言いたいのかもしれませんが、実りのある討論や検討ができるとは思えません。それぞれ立場の違いは大きいのであり、指向するところも違うのですから

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