コロナ禍とセカイ系アニメ

セカイ系のアニメ作品等について考えるシリーズを続けています。特に何か結論を導き出したいのでもなく、気づいたことや思い当たったことを書いているだけですが、よろしければ一読願います
今回は中尾健二静岡大学情報学部教授の論考「セカイ系の世界経験をめぐって」を読み、思うところを述べます
元記事のPDFファイルをブログに貼れませんので、引用はなしです。中尾教授の論考は以下のアドレスにアクセスして読んでください

セカイ系の世界経験をめぐって

論考では「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビ放映が1995年であり、その年に起きた地下鉄サリン事件と阪神淡路大震災についての言及がなされています。もちろん、当時の「エヴァ」の視聴者がこの2つの大事件を「エヴァ」に重ねて理解しようとしたのかどうか、定かではありません
ただ、セカイ系アニメの設定である掴みどころのない、はっきりと定義できない戦争が日常に浸食してくる、ある意味とらえどころのない感覚というものが自分にもありました
その後の湾岸戦争にしても、日常の生活の外周でリアルな戦争が起きているのに、テレビのニュースでやたら放映されているものに、かえってリアリティが掴めないという矛盾した感覚を思い出します
これを現状に置き換えれば、世界に拡散するコロナウィルスの感染とか医療崩壊という問題が、いまひとつリアリティをもって意識できないところに似ています
しかし、SF映画の出来事ではなく、まさしく今、自分の住み暮らす世界がウィルスの浸食を受け、多くの犠牲者が出ているのであり、自分がその只中にいることは疑いようがないのです。そして見えない敵を前にして、不要な外出を控え、人との接触をできる限り減らして感染しないよう気を付けるしかできないわけで
なので、日本全国の人がセカイ系の世界を経験していると言って間違いないでしょう
さて、中尾教授の論考はセカイ系という様相を日本のアニメが一時的に纏った衣装にすぎないと指摘し、セカイ系といえる独自の作品世界の成立に疑問符を投げかける。「最終兵器彼女」の展開を国家による共同幻想としての戦争への倫理的抵抗であるとし、陰惨かつ理不尽なものとして描く(その結果、かえってちせとシュウの純愛が引き立つ)
これは「エヴァ」が使徒との対決といった序章を「人類補完計画」なる大風呂敷で包んでしまうのとは真逆であり、同じくセカイ系アニメと言われながらも共通性も類似性もないのであり、セカイ系と括弧で括って論じる価値があるのか、怪しくなると自分は感じます
中尾教授は東浩紀の提示した「ラカンによる想像界、象徴界、現実界」の考え方を引用し、東曰くセカイ系アニメは象徴界が抜け落ちてしまっている、との指摘を指し示します
ただし、私見としてラカンが想像界、象徴界、現実界という概念を提示したのは思考のための1つのモデルとしてであり、すべてがこの3つ世界で説明できる断じたわけではありません。4つ目の世界が介在しても構わないのです
中尾教授の論からすると「イリヤの空」は初恋を拗らせた男子の想像界で展開する物語、となります
長くなりましたので、一旦ここで区切りにしましょう
姿の見えない敵(コロナウィルス)との戦いが続きますが、これはもう一度世界を認識し直す機会なのかもしれません。もちろん、コロナ禍をくぐり抜けた人類が、以前よりもましな存在になっているとは限らないのであり、自国民優先の差別と対立に溢れた苛酷な世界を生きる路しかないバッドエンド一直線、という可能性もあります
生き延びることができたなら、コロナ禍以降の世界を語る機会が得られるでしょう

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