なぜエヴァンゲリオンは若者の心をとらえるのか?

しばらく放置していた、セカイ系アニメを考えるシリーズです。今回も追手門大学心理学部の溝部宏二教授の論考を参照させてもらいます。長文なので全文は以下のアドレスからダウンロードし、読んでいいただければ幸いです
渡部教授の論考はいろいろと盛り沢山ではありますが、ここは記事のタイトルにも掲げたように、「なぜエヴァンゲリオンは若者の心をとらえるのか?」に絞って話を進めます
この論考は以前取り上げた、同教授の「新世紀エヴァンゲリオンにみる思春期課題と精神障害~14歳のカルテ~」の続編という性格なので、併せて読んでいただければ幸いです


罪と贖罪の神話ー「シン・ゴジラ」「風の谷のナウシカ」から考える「シン・エヴァンゲリオン劇場版:Ⅱ」ー
(前略:エリク・エリクソンの心理社会的発達理論の説明が続きます)
この青年期の課題だけではなく、その前後の「児童期」と「前成人期」の課題も重要となる。「児童期」の課題の獲得に失敗すると「青年期」の課題達成は困難であり、「青年期」の課題の獲得に失敗すれば「前成人期」の課題達成が困難となるからである。「児童期」には、学校で急速に知識を得るとともに家族以外の仲間を得て世界を広げていく。その際、勤勉さを学び、達成する喜びと周囲からの承や自尊感情を獲得する。しかし、勤勉さが足りないと劣等感を抱くに至る。「前成人期」には、異性との親密な関係を構築することである性行為を通じて、「心身ともに一体感」の体験を経験する。失敗すると孤立することを余儀なくされるのである。
エヴァンゲリオンは、14際の少年少女たちが「青年期の発達課題である『自我同一性』を求めて奔走する物語であるとも言える。物語の中でその獲得と失敗を繰り返すのである。もちろん、近年の客観的体型として構造主義や記号論的な立場から、「自我の喪失」は自明のこととされている。自我は「幻想」であり、個人は「体系=構造」の中に埋没する故に自我などという「核」は存在しないと考えるのがトレンドであるのは理解している。しかし、本小論では「罪悪感」「生命観」という主観的な観点からの考察を進めているので、このやや時代遅れとなりつつある「自我」の存在を自明のこととして述べたいと考えている。

「エヴァンゲリオン」を観る若者は、主に碇シンジやアスカ・ラングレーの課題失敗や、あるいは課題成功を自身に重ねる体験を経て、より耽溺していくと解釈すればよいのでしょうか?
あるいは綾波レイが「自分にとって大切なもの」を見出し、「自分の替わりはいくらでもいる」との考えを捨て、自身の価値を肯定するシーンを見て、若者は己の価値を肯定するに至る、とも解釈できます
ただ、いつも健全に問題なしに課題達成(学校のテストが定期的に押し寄せてくるイメージしかないのですが)できるとは限らず、幾度もの失敗や挫折を経由するシーンが盛り込まれています
現実問題として、中学生や高校生は次々と課題に追われ、これを達成するよう強いられているのが日常ですから、エヴァに登場して使徒と戦えと迫られる碇シンジが特別、というわけではありません
上記のように若者が自身の体験と重ねるという点で、繰り返し視聴する傾向は説明できるのでしょう
しかし、青年期をとうに過ぎた大人が繰り返し視聴する行為は、どう説明できるのでしょうか?
碇シンジの「青春の青臭さ」を反復して味わおうという意図がおじさんたちにあるのか、あるいは別の動機があるのでしょうか?
自分も会社を定年退職する年齢になって分かったように、青春時代を懐かしみ回顧する趣味はなくても、若き日の記憶というのは断片的に意識に浮かぶものであり、追憶に浸る時間が以前より増えた気がします
特に自分の場合、5月末に転居し久々に実家に戻った事情もあり、自身の通った小学校や中学校の前を通り過ぎることもしばしばです。記憶のままに現存している場所、消えてしまった建物など、さまざまな変化を前に戸惑い、驚く日々を楽しんでいます
なので、エヴァンゲリオンの物語も青春時代の記憶と同じく、反芻し味わうに値するものであるがゆえ、おじさんたちはいつまで経ってもエヴァンゲリオンを語り続けようとするのかもしれません
「人類補完計画」が成功しようと、失敗しようと構わないのであり…
この論考で検討すべき内容は他にいくつもありますので、後日、また取り上げるつもりです

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