カンボジアPKOと機動警察パトレイバー

カンボジアでのPKO活動参加について調べていて思い出したのが、「機動警察パトレイバー 2 the Movie」です
実際のPKO活動については、日本から文民警察官(軍人ではない者)が拳銃も所持せず、丸腰で参加しました。結果、日本人警察官が乗っていた車両が現地の武装集団に襲撃され、1人が死亡し4人が重軽傷を負う被害を受けています
PKO活動への参加を巡って国会で延々と議論をし、野党側は銃器の携行に徹底して反対し、拳銃を持参させることですら「外国に対する武力に行使であり、戦争行為だ」とか「明らかな憲法違反」だと主張しました
文民警察官が拳銃を携行するのはけしからんと野党が騒いだため、日本人警察官は丸腰のままカンボジアに赴かざるを得なかったわけです(内戦が終わったばかりのカンボジアでは、自動小銃やロケット砲を手にした軍人崩れのゴロツキが跋扈している状況でした)
この理不尽な状況は、そのまま「機動警察パトレイバー2 the Movie」において、PKO活動のため派遣された柘植行人率いる自衛隊のレイバー小隊が一切の発砲を禁じられ、現地武装集団から攻撃に為すすべなく壊滅するシーンとして描写されています
評論家の藤津亮太は「機動警察パトレイバー2 the Movie」について、以下のように書いています


冷戦終結と豚、そして告げゆく人。『紅の豚』と『機動警察パトレイバー2』
(前略:「紅の豚」とユーゴスラビア内戦について)
▼冷戦終結と深い関係を持つ『機動警察パトレイバー 2 the Movie』
『紅の豚』の翌年、1993年に押井守監督の『機動警察パトレイバー 2 the Movie』が公開される。本作もまた冷戦終結と深い関係を持つ映画だ。
映画の舞台は(当時から見て)近未来である1999年、東南アジア某国で、PKO部隊として日本から派遣された陸上自衛隊レイバー小隊がゲリラ部隊と接触する。本部からの発砲許可を得られないまま一方的に攻撃を受けて壊滅した。その小隊の隊長、柘植行人は自衛隊を辞め、そして"戦後の平和"の虚妄を暴くために再び東京に現れる。
1948年に始まった国連平和維持活動(PKO)は、冷戦の終結とともに、急激にその数を増やすことになった。安全保障理事会は1989年から1994年にかけて計20件の新規PKOを認可し、平和維持要員の総数も1万1,000人から7万5,000人へと増加している(国際連合広報センター「平和維持活動の歴史」より)。
こうした流れの中、日本でも1992年にPKO協力法が成立し、陸上自衛隊は国際連合カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の下で任務にあたることになった。国際連合の枠組みで活動するPKOへの参加は初であった。『パトレイバー2』の冒頭のシーンは、こうした自衛隊を取り巻く状況を踏まえたものだった。
柘植は、ミサイルでレインボーブリッジを壊し、ハッキングによって"自衛隊機による幻の空襲"を演出することで、自衛隊と警察の対立を煽り、東京を一種の戦争状態へと誘導していく。冷戦が終わり酷薄な世界情勢を目の当たりにした柘植は、太平の眠りを貪る日本という国に「戦争という現実」を突きつけようとしたのだ。
柘植の動向を追うために特車二課の隊長、後藤喜一に接触してきた謎の男、荒川は、この国の平和について次のように述べる。
「この国のこの街の平和とは一体なんだ? (略) 今も世界の大半で繰り返されている内戦、民族衝突、武力紛争。そういった無数の戦争によって構成され支えられてきた、血まみれの経済的繁栄。それが俺たちの平和の中身だ、戦争への恐怖に基づくなりふり構わぬ平和。正当な代価をよその国の戦争で支払い、そのことから目を反らし続ける不正義の平和」。「単に戦争でない、というだけの消極的で空疎な平和は、いずれ実態としての戦争によって埋め合わされる。そう思ったことはないか?」。
この映画において、荒川のこの認識は柘植とほぼ重なっていると考えてよい。そしてこの"(この作品内において)現実的な認識"とされるものを頭から否定するのは難しい。実際、現実を見ようとしない警視庁幹部を前にした時、後藤が感じた苛立ちは柘植の動機と同種のものだ。そういう意味で、後藤はもとより柘植を止めることはできないのだ。
しかし、ここまで現実的な認識をしながら、柘植はなぜ「戦争状況」という虚構を演出するという、矛盾した手法をとったのか。
それは柘植が伝えたかったのが「戦争という現実」という概念だからだ。柘植の目的は「誰かがお前を狙っている」「敵がそこにいる」というアジテーションではない。戦後日本の虚妄を暴く、一種の批評にこそ柘植の目的はあった。だから誰が敵かもわからない、「戦争状況」だけを欲したのだ。
だがいくら柘植が批評に留まろうとしたところで、「戦争という現実がある」という主張と「そこに敵がいる」というアジテーションの距離は恐ろしく近い。
後藤は先述の荒川の長広舌の間にこんな返事を返している。「そんなきな臭い平和でも、それを守るのが俺たちの仕事さ。不正義の平和だろうと、正義の戦争より余程ましだ」。
(以下、略)


日本が戦後享受してきた平和の虚妄を暴こうとした柘植の行動をどう受け止めるか、という投げかけがあるわけですが、視聴者の多くは響かない、陳腐な問いかけだったと思います
実際、作品はよくできていますし、幻の首都爆撃など見せ場も多く、こうしたアニメはディズニーやピクサーには作れません。韓国や中国でも作れないでしょう。つまり日本だけ、作ることが可能だったという奇跡のような作品です
残念ながらカンボジアでのPKO活動は日本国内で顧みられる機会はなく、正当に評価したり、結果を検討されたりもしていないようです
井出庸生衆議院議員による政府への質問主意書と、政府による回答を見ればそれが分かります

尊い命が失われたカンボジアPKOを評価、検証し、未来の政策に活かすことに関する質問主意書

政府にすれば諸外国の手前、仕方なしに参加したPKO活動であり、厄介な出来事として忘れてしまいたいものなのでしょう
なお、このPKO活動をきっかけに菅直人首相の時代、民主党では小沢一郎や横路孝弘らが自衛隊とは別に「国連待機軍」を編成する構想をぶち上げたのですが、議論も進まず立ち消えになっています

民主・菅代表、国連待機軍を提唱へ 自衛隊と別組織で
民主党の菅代表は29日、イラクへの自衛隊派遣問題に関連し、国連平和維持活動(PKO)や国連の下での多国籍軍に日本が参加する場合は、自衛隊と別組織の「国連待機軍」(仮称)を派遣する構想を提唱する方針を固めた。来年1月13日の党大会で提案し、党の安全保障政策の柱とする考えだ。同様の構想は旧自由党の小沢一郎代表代行や社会党出身の横路孝弘副代表らも唱えているが、党内の意見集約に手間取る可能性もある。
菅氏は29日、朝日新聞の取材に「国連決議などがある場合、国家の主権の行使とは別の意味で、自衛隊と別の組織を海外に出すこともあり得る。そういう整理が必要だ」と述べた。菅氏は24日の記者会見で「どういう原則で自衛隊を海外に出すのか、年が明けた段階で提起したい」と語っており、自衛隊と別組織を派遣することを原則とする考えを示したものだ。
11月末には小沢氏と横路氏が「指揮権を国連に委ねた自衛隊の別組織である国連待機部隊を創設する」との合意文書を確認している。しかし、小沢氏は武力行使を含む活動が可能と考えているのに対し、横路氏はPKOを想定しており、考え方の隔たりは大きい。菅氏は武力行使については将来的な検討課題と位置づけており、今後の詰めが必要となる。また、党の政策を決める「次の内閣」では議論されておらず、批判的な意見が出る可能性もある。

PKO活動参加すら拒み批判する勢力がいる民主党で、「国連待機軍」の新設など合意を得られるはずがないのであり、保守から中道・左派まで含んでいるがゆえに「何も決められない民主党」の性格が如実に現れています

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