宮崎駿「風立ちぬ」批判を振り返る3

宮崎駿の「風立ちぬ」に対する批判はさまざまですが、中にはとんでもない誤解、理解不足による批判にもなっていない批判という類のものがあります
今回取り上げるのは「アンナの韓国生活」と題するブログで、ブログ主は韓国に留学中の女性のようです
彼女が韓国の研究として、「『永遠の0』と『風立ちぬ』を通じた日本の戦争記憶」という論文を紹介してくれています。残念ながら論文のタイトル、著者名はハングル文字で表記されていますので、読めません
せめてどのような背景に立った研究であるのか、説明があればよいのですが、以下のよな要旨のみブログにあるだけなので、何とも扱いようがなく、もったいない気がします
アンナさんにはせひとも論文全体を日本語に翻訳して紹介していただきたいところです
以下、ブログに貼られた論文のタイトルと要旨を引用します


『永遠の0』と『風立ちぬ』を通じた日本の戦争記憶
『永遠の0』
原作では、特攻とは、民間人ではなく殺戮兵器である空母を目標としたものだと描かれています。
作品の(朝日新聞社を連想させる)新聞社の記者に対する批判と、それと対立的な構図を通じて、戦後日本社会で支持されてきた「特攻隊はテロであった」意識、ひいては「戦犯国家」意識というものが捏造されてきたと原作者が示していると指摘します。
心あたたまる「個人史」として神風特攻隊を描くことによって、原作の偏向した視角と一般人の距離が縮まりました。また、特攻隊をイデオロギーではなく「人情」で見ることによって大衆性と普遍性を生み出したと同時に、戦争を忘却させていると評価しています。
『風立ちぬ』
零戦という戦闘機は、真珠湾空襲当時、自殺特攻隊が使用した飛行機で、つまりは、戦争という神話を完成させるために、自分の命を投げ打って多くの被害を出した狂気の象徴なわけです。
ところが、アニメーション映画では戦争の象徴である零戦は新しい技術に対する美しい努力として置き換えられ、戦争に対する記憶を忘却させようとしていると指摘しています。
日本の文化コンテンツ国家ブランド=「クール・ジャパン」戦略への指摘
これら作品は、自身の痛みと苦しみを曖昧にすることによって、戦後日本社会の矛盾を大きくし、思想の出発点が異なるにも関わらず共通集合を作っていると指摘しています。
「クール・ジャパン」とはクリエイティブなイノベーション国家を目指す戦略であるわけですが、この根底には愛国心が存在し、ひいては加害者意識を薄めることにつながっていると評価しています。


どこから突っ込めばようのか、という内容です
論文全体を読めないので言及するのは躊躇う部分もあるのですが、それではブログになりませんので書きます
そもそもクール・ジャパン戦略と宮崎駿の作品「風立ちぬ」の間にどのような関係があるのか、不明です。スタジオジブリが日本政府の「クール・ジャパン」事業から補助金を受け取って「風立ちぬ」を制作したというのなら関係があるのでしょうが、そのような事実があるのでしょうか?
日本のアニメが政府の戦略に基づいて作られているなどというのは、中国や韓国だけに見られる誤解です(日本政府にそのような高度な戦略的発想はありません)
日本の漫画やアニメは政府の戦略とは関係なしに、出版社や映画会社の営業努力によって海外に進出したのであり、その当時は韓国のように政府の補助金が支出されたりはしていません。日本政府が「クール・ジャパン」などと言い出したのはつい最近にすぎません
加えて、「クール・ジャパン」は海外に日本のサブカルチャーを売り込む狙いであって、ほぼ日本国内向けコンテンツである「永遠の0」や「風立ちぬ」に補助金を出す意味はありません。まあ、宮崎駿作品だから海外にも少しは売れるだろう、と目論む人はいるにしても
なので、「クール・ジャパン」の根底には愛国心があるとか、加害者意識を薄めるための策略などという論文の指摘は陰謀論と同じです
さらに「風立ちぬ」において論文が述べている「(零戦は)戦争という神話を完成させるために、自分の命を投げ打って多くの被害を出した狂気の象徴」との指摘も、根本的な間違いです
単に論文を書いた韓国の研究者がそう思い込んでいる、というだけの話にすぎません。個人的な思い込みを、確立された定義であるかのように振りかざすのは研究ではなく、ただのプロパガンダでしょう
総じて「風立ちぬ」についての韓国メディアの記事、韓国研究者の主張はこの「個人的な思い込み」を確立された歴史観や価値観であるかのように持ち出し、批判しているだけのつまらない内容ばかりでした
加えて指摘すれば、真珠湾攻撃当時は零戦による特攻は行われていません。韓国人がいかに歴史を知らないか、分かります
もう一つ言わせてもらえば、特攻は敵国の戦闘艦を攻撃する手段であって、非戦闘員をも無差別に殺害するテロではありません。特攻を自爆テロであるかのように決めつけるのは大間違いです
このようにテロの定義すら履き違えているのですから、論文の著者がどれだけ頭の悪い人物であるか、呆れて物が言えません
「風立ちぬ」を戦争の記憶を薄めるために作った、などという見解は言いがかり以下であり、論評する気にもなれないと書いておきます
繰り返しになりますが、アンナさんには是非ともこの論文「『永遠の0』と『風立ちぬ』を通じた日本の戦争記憶」の全文を翻訳し、紹介していただけるようお願いします

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