劇場版「機動警察パトレイバー2 the Movie」を語る

最初は「研究」と記事のタイトルにはつけましたが、それほどの用意はなく、探究心にあふれているわけでもありません
自分の気に入った作品について、何かまとまった記事を1つ書き残しておきたいと思い立っただけなので、変更しました
押井守監督の劇場版「機動警察パトレイバー2 the Movie」は1993年に公開された作品で、興行収入は1億8千万円ほど。同年公開された映画では「ジェラシックパーク」が大ヒットとなり興行収入は83億円です。劇場版アニメーションとしては、前年1992年公開の「紅の豚」が28億円、1994年公開の「平成狸合戦ぽんぽこ」が26億円といった具合です
なので、「機動警察パトレイバー2 the Movie」は興行としてはまったく成功しなかった作品といえます
ですが、作画にしろ、ストーリーにしろ、演出にしろ、実に見るべきもの、語るべきものの多い作品であり、傑作の1つに挙げてしかるべきと自分は思っています
今回は「ひたすら映画を観まくるブログ」さんの記事を引用させてもらいます。丹念に情報を拾い、まとめた質の高い記事を書いておられる方です

『機動警察パトレイバー2 the Movie』はこうして生まれた

映画公開前後に監督やスタッフが取材を受け、作品について多くを語るのが常です。しかし、こうした発言を自分はあまり信用しません
表に出てくるのは、表に出せるエピソードだったり、当たり障りのないよう脚色した話であると推測するからです
よく宮崎駿の制作現場にカメラが密着、などというテレビ番組がありましたが、あれもテレビで紹介できる場面だけを切り取って編集されたものです。映画の公開日が近づくにつれ制作現場(ジブリ)は修羅場と化し、宮崎駿がスタッフを「なぜこんなミスを見逃すんだ?」とか、「何度説明したら判るんだ?」などと怒鳴りつけるのが日常ではなかったか、と想像します
それを表に出すとスタジオジブリのイメージ、宮崎駿の「自然大好きなトトロのやさしいおじさん」というイメージが壊れますので、編集でカットしているのだろう、と
さて、「機動警察パトレイバー2 the Movie」でも同じであり、制作にかかわった創作集団「ヘッドギア」(ゆうきまさみ、出渕裕、押井守、伊藤和典)の間でも、さまざまな葛藤、対立があったものと想像されます。が、作品ができあがってしまえば制作時のいざこざを蒸し返すのは野暮というものでしょう
ただ、制作過程での役割分担というのは、作品を読み解く上での手がかりになるため、「ひたすら映画を観まくるブログ」さんの記事からいくつか引用させていただきます

『パト2』に関して言えば、設定なんかも含めて、ほぼ押井さんが決めてましたね。押井さんがあらかじめかなり詳細なプロットを用意していたので、脚本家の自分はただそれになぞって書くだけでした。後藤と荒川が川下りしながら長台詞の会話をするシーンなんかも、押井さんから「ちょっと語りたいことがあるから、場面だけ用意しておいて」ってオーダーがあったので、僕はただその場面を脚本内に配置しただけですから。実際のセリフも全部押井さんが書いたものです。
 (「機動警察パトレイバー 泉野明×ぴあ」より)

『パトレイバー2』の制作は最初から波乱含みでしたね。お互いに牽制し合って、誰が主導権を握るんだ?って感じで。ただそれは、ハッキリ言って最初から勝負はついていた。つまり、伊藤くんと僕が組んだ時点で「戦争ものをやろう」って。バンダイの方も、最初のOVAでやったクーデター話(5話・6話)がお気に召していたみたいだから、一応の内諾は取れてたんです。あとは、伊藤くんと早々に共同戦線を張って、泣こうが喚こうがストーリーの大枠を決めちゃって、これでもう勝つ構図はできていたわけですよ。
まあ、こんなことばかりやっていてもしょうがないんだけど、映画を成立させるためには政治力というか力関係というか、戦略が大事なわけ。早い段階で勝負を決めておかないと、スタートしてからケンカを始めると、お互いに消耗戦になった挙句に損はするしボロボロになってしまう。問答無用で抜きざまに一閃しないと。相手がもんどりうってるうちに、ことを進めちゃわないとダメなわけですよ(笑)。まあ、そういった意味では作戦勝ちでもあったし、ヒドいことをやったなとは思うんだけど、今回は全く聞く耳を持たなかったというか、何を言ってきても受け付けなかった。 
(「押井守全集 THE SEVEN DOGS' WAR」より)

語りたいものを全面に出すとほぼセリフだけの展開になりますから、そこにどのような絵を当てはめて、語りのバックボーンや世界観を表現するかが重要になります。上記の後藤と荒川が川下りをしながら会話をする場面は、沿岸の工業地帯や倉庫群を観客に観せて日本の経済的反映を印象付ける演出になっています
この後藤と荒川の会話が事件の伏線であり、事件の真相を裏付けるものですから、重要な場面です。が、如何せん長い
したがって、押井守としては絶対に譲れない、譲りたくない場面だったのであり、セリフのカットにも応じたくなかったと推測します
荒川役の声優に竹中直人を起用したのも当たりで、2人の会話がより印象深いものになったのも竹中の深みのある声による功績でしょう

1作目はアクション性を全面に押し出した娯楽映画だったけど、2作目は全然違う種類の映画で、ある種の”ポリティカル・フィクション”を目指したんですよ。登場人物と観客との間に常に一定の距離を保ちつつ、緊迫感や予兆みたいなもので物語を引っ張っていこうと。アニメでそういうことが可能なのかどうなのかってことも試してみたかった。きっかけは湾岸戦争ですね。僕らの世代は戦争の記憶といえばベトナム戦争なんだけど、今の若い人たちにとっては湾岸戦争だろうと。ちょうど映画の準備をしていた時期に湾岸戦争が勃発して、アニメで戦争を描くにはいい機会だと思ったんです。
ベトナム戦争と湾岸戦争の大きな違いは何かっていうと、「モニターの向こうにしか戦争がない」ってことなんですね。いま世界中で戦争が行われているのに、日本だけが敢えてそういう現実から目を逸らそうとしている。あくまでもモニターの向こう側の出来事であって自分たちには関係ない…と。そういう人たちに強烈な一撃を食らわせようとする犯人のイメージがまずあって、それが柘植行人という男なんです。 
(「BSアニメギガ とことん押井守」より)

政治色の濃い作品ではありますが、首都圏を目指して飛来する自衛隊機を迎撃しようとする緊迫したやりとりなど、ミリタリー好きにも刺さる場面が盛り込まれていたり、柘植行人と南雲しのぶの大人の恋をさりげなく描くといった場面も含まれており、見せ場が工夫されています
自衛隊の治安出動であるとか、自衛隊基地前に警察が機動隊を展開させて事実上の基地閉鎖に動くといった権力のぶつかり合いを描いて緊迫感を演出する一方、市民が自衛隊の戦車を前に日常の通勤風景を繰り広げる・・・という具合に弛緩した状況も対比として描いているのは出色です
劇場版のアニメーション(長尺もの)はこうやって作るんだよ、というお手本のような作品です
公開から随分と時間が経過し、いまや古典と呼ぶ部類に含まれるのでしょうが、アニメーションを学ぼうという人や若いアニメーションファンには是非、一度観てほしい作品です
最後に、政治と戦争に絡めて書きます。公開されたのが1993年です。それから16年を経て民主党政権が成立し、平和ボケここに極まれりという政治が続きました。その後、安倍内閣では安全保障関連法案が提出され、反対派が国会前に押しかける騒動にはなったものの、安全保障に関する議論が深まったのかと問われれば、首を傾げざるを得ません
つまり「機動警察パトレイバー2 the Movie」の、戦争という状況に国民を直面させ、目覚めさせるという過激な発想がいかに時代の先をいっていたか、という話になります
もちろん、戦争を望んでいるのではなく、戦争を回避する上でも単に「平和主義」だとか「平和国家」とか、「憲法第九条」だとかお題目のように唱えるのではなく、具体的な政策、方針が必要という話です
「日本は世界で唯一の被爆国である」と枕を唱えたなら、世界の国々が日本の主張に耳を傾けてくれる、などという事態にはなりません
野党は安全保障に関する議論をひたすら避け、学術会議だの「桜を見る会」だのの質問を繰り返し、政府与党を追及しているフリをするのに懸命
です。それよりも不測の事態に巻き込まれた際に(北朝鮮から弾道ミサイルが飛んできて日本の都市部に着弾し、人的被害が発生した場合)にどうするか、議論する必要があるのではないでしょうか?
あるいは北朝鮮に弾道ミサイルを発射させないためにどうするか、を議論してもらいたいものです

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