押井守 「鬼滅の刃」はなぜヒットしたか

押井守監督が「鬼滅の刃」について語っています。「なぜヒットしたのか」という問いを立て、「わからない」と答えています
なぜヒットしたのか、その理由がわからないと書けば、一般人から笑われるかもしれませんが、そこはいつものように押井節で明快に説明しています


『鬼滅の刃』のナゾ 押井守が考える「設定もキャラクターも新しいわけではない」のにバズった理由
「100万人までは作品の力。それ以上は社会現象」
(1)『鬼滅の刃』大ヒットの理由とは?
YouTubeの映像以外で『鬼滅の刃』を見たことはないけれど、基礎知識は一応ある。原作の漫画に人気があったというし、画も丁寧。とはいえ、設定もキャラクターもストーリーも新しいわけではない。にもかかわらず劇場版(『鬼滅の刃 無限列車編』)は日本の興行成績を塗り替えるほどのメガヒットを記録した。
その理由を考えるとき、私の頭に浮かぶのは、鈴木敏夫(ジブリ作品のプロデューサー)の「100万人(の動員)までは作品の力。それ以上は社会現象」という言葉。アンコントローラブルのところまで行って、初めて大ブレイクする。今風にいうと「バズる」。バズった作品がメガヒットする。
「バズる」ことの本質は、誰もが知りたい現代の謎のひとつ。タネも仕掛けもないから“現象”であって、“現象”が先行するから“現象”であり、その理屈はあとからついてくる。では、「バズる」ことの臨界点はどこで超えるのか? 誰もが情報の発信者になりうるこのSNS社会で、どうやったら個人的な情報が臨界点を超えて社会現象を起こすのか? これもいろんな人が考えているけれど、納得できるような答えは出ていない。
そこで、自分なりに考察してみると、考える順番が違うんだと思っている。「バズる」という現象は、現象ありきなのだから帰納的にしか説明できない。すべてが後付けになるため、演繹的に考えても無駄。哲学的にいうと、世の中には語れることと、語れないことがある。語れないことに対しては沈黙を守るしかない。つまり、その「語れないこと」が「バズる」ということ。そもそも人間はいまだに世の中の仕組みをコントロールできないんだから仕方ない。
これは流行の本質だと思う。わからないからこそ、みんなが興味を示し近づく。評判が立っているという現象に誘導される。そうなると、いいか悪いかはもう関係ない。大ヒットした『君の名は。』も同じ。もちろん作品の力はあった。でも、その作品の身幅を超えたからこそ大ブレイクした。
『鬼滅』はおそらく、これからも劇場版が作られるだろうけど、この1作目と同じように大ヒットするかは怪しい。『ドラゴンボール』や『ワンピース』のようにスタンダードになるかというと、それも難しいと思う。でも、なぜそう感じるのかは説明できない。それもまた「語れないこと」だから。
(中略)
今の日本の劇場は、追体験の場にしかなっていない。人気アニメや漫画、ベストセラー小説の実写化ばかり。オリジナルといえる作品とはほぼお目にかかれない。それは何を意味しているかといえば、観客は「知っているものしか見たくない」。彼らは、正体のわからないものに金と時間はかけたくないということになる。
これは映画館としては末期的な状況だと、私は思っている。(以下、略)


これが怪しい経営コンサルタントなら、ヒットしたのは「3つのMがあったからだ」などと主張し、怪しい「3つのM」についてくどくど説明するでしょう。あるいはヒットする映画の法則なるものをでっち上げ、「成功の方程式」に沿って作られたので大ヒットしたと説明するかもしれません
プロ野球ではいまだに、「勝利の方程式」などとバカげた解説をする野球評論家がいたりします
上記の記事にもあるように、帰納法に乗っ取り後付の理屈で◯◯だからヒットした、という事象を積み上げて説明するしかない、というのが実際のところでしょう。「成功の方程式」なるものが実在し、その法則に則って映画を作れば必ずメガヒットになる(これは演繹法)、などと断言できる人はいないはずです。いたら、詐欺師の類でしょう
特に「鬼滅の刃」については、「作品の力」と説明するのがふさわしい気がします
人気アニメや漫画の実写化、という日本映画の指向が間違いであるとは誰もが感じているのでしょうが、人気アニメや漫画の実写化という企画でなければ資金を集められない事情もあるのでしょう。人気アニメや漫画の実写化ならそこそこ当たるはず、との予測の元に製作委員会が組織され、資金が提供されるのですから
それでも、NHKがドラマ化した「岸辺露伴は動かない」には驚かされました。実写化困難と言われる「ジョジョ」シリーズも見事にドラマ化したのですから。あれをテレビドラマでなく、映画館にかけたとしても客を呼べたに違いありません。ドラマにしろ映画にしろ、まだまだ我々の知らない表現方法があるのだ、という見本でしょう

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