茨城一家殺害事件を考える 酒鬼薔薇事件と似てる?

凶悪事件は起きた際、メディアはこれを前例となる事件と比較し、共通点を探し出して関連付けようとします。例えば茨城一家殺害事件を「第2の酒鬼薔薇事件」と名付けるように
そうした表現の方がすんなり人々の頭に浸透しますし、関連付けて連想し、解釈できるからなのでしょう
しかし、安易に「第2の◯◯事件」と決めつけるのは結果として事件を読み違え、誤った解釈をしてしまう危険がつきまといます
茨城一家殺害事件を自分は「第2の酒鬼薔薇事件」であるとは思いません。理由は簡単で、岡庭由征容疑者は十代で通り魔事件を起こして医療少年院に収容された後に本件を起こしていますが、酒鬼薔薇聖斗は医療少年院を出た後も事件を起こしていないからです。なのでこの2人には大きな相違点があると考えなければなりません
「東洋経済」のウェブサイトには事件の共通点だけに注目し、あの事件とこの事件は似ている、同じだと安直に決めつける記事が掲載されています。共通点だけ見て相違点は無視する、という態度はまるっきりの素人でしょう
現代思想の構造主義や現象学をかじった人間ならば、事件ごとの差異にこそ注目すべき、との見方ができるはずです
「東洋経済」掲載の記事は長文なので、一部のみ引用させてもらいます。全文を読みたい方は以下のサイトへアクセス願います


茨城一家殺傷事件は「第2の酒鬼薔薇事件」なのか
16歳のときに殺人未遂罪など13の罪で起訴
岡庭容疑者は、高校2年生の16歳だったちょうど10年前に「連続通り魔事件」を起こしている。2011年11月18日、三郷市の路上で中学3年生の女子生徒のあごを包丁で突き刺して怪我を負わせ、2週間後の12月1日には隣接する松戸市の路上で小学2年生の女児の脇腹など数カ所を刺して重傷を負わせている。岡庭容疑者はこのときに、こう供述していた。
「人を殺してみたかった」
それ以前から身近にいる小動物の虐待を繰り返し、高校にネコの生首を持ち込んで騒ぎになったこともあった。それだけではなく、三郷市内の自動車やバイクに放火を繰り返していた。岡庭容疑者は、通り魔事件で逮捕されると、家裁から検察に逆送され、2件の殺人未遂罪のほかに、放火やネコ2匹を殺したという動物愛護法違反などを合わせて、13の罪で起訴されている。
それですぐに思い浮かぶのが、神戸連続児童殺傷事件、俗にいう「酒鬼薔薇事件」だ。
1997年5月27日早朝、神戸市須磨区の中学校の正門に、切断された子どもの頭部が放置されているのが発見された。3日前から行方不明になっていた近隣に住む11歳の男児のものだった。
耳まで切り裂かれた口には、「酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)」と名乗る犯行声明文が挟まれていた。それだけでも衝撃だったが、1カ月後の6月28日に容疑者として逮捕されたのが当時14歳の少年だったことは、日本中を震撼させた。
さらに少年は児童を殺害する以前の同年2月1日には須磨区の路上で女児2人をショックレス・ハンマーで殴り、1人に重傷を負わせていた。翌3月16日には、須磨区の公園で当時小学4年生の女児を金槌で殴って殺害。その直後に、別の小学4年生の女児の腹部を刃渡り約13センチの小刀で刺して重傷を負わせている。
それ以前の小学5年生くらいから、カエルなどの解剖をはじめ、その対象が次第にネコに移っていった。それがやがて人間へと辿り着く。のちに家庭裁判所の医療少年院送致決定の中でも、「ネコ殺しの欲動が人に対する攻撃衝動に発展した」と指摘されていた。まさに、岡庭容疑者を彷彿とさせる。
岡庭容疑者は精神鑑定で「広汎性発達障害」と診断され、医療少年院に送られることになった。その少年院を出所した翌年に、今回の事件を引き起こしている。
(中略)
ただし、それぞれの事件当時には「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」と診断されていたが、現在はそのような呼び方はない。
というのも、日本の精神医学は米国精神医学会がまとめた精神障害や疾患の診断基準「DSM」に基づくが、2013年に改訂した「DSM‐5」から、これらはすべて「自閉症スペクトラム障害(ASD)」にまとめられ、その診断名は消えたからだ。
このASDに「注意欠如・多動性障害(ADHD)」、「学習障害(LD)」を加えた3つが、今では「発達障害」とされる。ちなみに、神戸の少年は中学時代に受診先でADHDの疑いと診断されていた。
(以下、略)


ナイフで人を刺す行為がそれぞれの事件で共通していたとしても、そこに込められた意味は異なる可能性もあります。酒鬼薔薇聖斗の神戸家裁判決文は「文藝春秋」に掲載され、自分も読みました。しかし、岡庭容疑者の判決文を自分は読んでいないので、比較・検討はできていません
どなたか、両者の事件について詳細な比較検討をしていただけると大いに参考になるのですが
さて、少年院や刑務所では犯罪種類別にグループを形成し、行動療法的なアプローチが採用されているようです
つまり性犯罪者のグループや薬物乱用者のグループ、という具合に分け、更生のためのプログラムを実施するやり方です
もちろんそれはそれで1つの方法です。ただ、これとは別に個人、個人に焦点を当てる心理療法もあります。ただ、心理療法はいかなるものであれ、本人に自己の問題点を探りどうにかしようという強い動機が必要であり、仮退院(仮釈放)のための点数稼ぎ程度の動機では効果がないと考えられます。また、個別的な働きかけが中心になるため、少年院や刑務所のような集団処遇を前提とする施設では実施が難しいのです
岡庭容疑者が眺めた世界 酒鬼薔薇聖斗が眺めた世界
現代思想風の解釈をすれば、岡庭容疑者の意識の上に立ち現れた世界と、酒鬼薔薇聖斗の意識の上に立ち現れた世界は異なるものであり、たまたま犯行の特徴の一部が似ていたとしても、それぞれにとって事件の意味は異なる、と考えられます
不十分にして歪な形ではありますが、酒鬼薔薇聖斗こと東慎一郎は「絶歌」という自伝とも小説ともつかない本を書き、自身の行為について世間に説明しようと試みました
本の出版は多大な批判を浴びたわけですが、彼の起こした陰惨な犯罪の数々を考えれば当然です(同時に、小説を発表し作家として名を成そうという欲が露骨に感じられたのも批判された理由の1つでしょう)
が、彼にはめげることなく自身を省察し、言語化する行為を続けてもらいたいと望みます。それこそが事件と向き合う行為であり、更生の手がかりになり得るのですから。売名行為とそしられようが、自らの体験を言語化する試みは重要かつ有意義です
事件から目をそむけて語らず、偽名を名乗り、見知らぬ土地に隠れ住む行為を更生である、とは自分は思いません
岡庭容疑者の方は少年院を出た後、自分の通り魔事件と向き合おうとせず、己の犯罪衝動のまま行動していたように映ります
2人を分けたのは当然ながら、人間としての違いにあるはずです

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