茨城一家殺害事件を考える 岡庭容疑者は反社会パーソナリティ障害か

文春オンラインに興味深い記事が掲載されていますので取り上げます。昭和大学医学部の岩波明主任教授が茨城一家殺害事件で逮捕された岡庭容疑者について、彼が高校生時に起こした殺人未遂事件に関する精神鑑定で広汎性発達障害との診断が下されたのは誤診ではなかったか、と問題提起する内容です
残虐な殺人事件を起こした人物にいかなる診断がつけようとも、「そんなものはどうでもよい(死刑になるのだから)」とする風潮も世の中にはありますが、自分としては関心を抱かざるを得ない見解です
長文の記事なので、全文を読みたい方は文春オンラインにアクセス願います


「殺すほうが大事です。そっちのほうが、興奮するから」殺人に快楽を覚える“反社会性パーソナリティ障害”
(前略)
1回きりの大量殺人と、犯行が繰り返される連続殺人の違い
複数の人が殺害される事件には、1回きりの大量殺人と、一定の期間をおいて犯行が繰り返される連続殺人があります。両者は似て非なるもので、犯人の特徴には大きな違いが見られます。
1回きりの大量殺人犯は、多くの場合、激情型の犯行におよびます。たとえば1999年の池袋通り魔事件では、犯人の造田博が東池袋の東急ハンズ池袋店前で「むかついた。ぶっ殺す」と叫び、両手に持った包丁と金槌で通行人を次々と襲い、女性2人が死亡、6人が重軽傷を負いました。2007年5月に最高裁で死刑判決が確定しています。裁判や拘置所での支離滅裂な言動を見る限り、私は造田が統合失調症に罹患していたと考えています。
2001年に大阪教育大付属池田小事件で小学生8人を殺害した宅間守も、多動性・衝動性、不注意など、いわゆる落ち着きのなさを特徴とするADHD(注意欠如多動性障害)をベースとしつつ、統合失調症を発症していたと考えられます。ただし、どちらのケースでも、精神鑑定では別の疾患の診断が下されました。
統合失調症の典型的な症状は、被害妄想や幻聴です。宅間の場合には、事件以前の言動から明らかに被害妄想と幻聴が出現しており、実際、精神科でも統合失調症の診断を下されています。日頃から被害妄想や幻聴に悩まされ、本人としてはそれに対抗する形で、凶行に及びました。

宅間守は強姦事件を起こした後に精神病院に入院し、5階から飛び降りて重症を負っています。この結果、統合失調症との診断がついてのですが、これは有罪判決を免れるための行動であり、詐病との見方があります
宅間は複数の病院で診察・治療を受けており、統合失調症のほかに精神神経症、敏感関係妄想、神経症などの診断がついており、一番長く宅間の診察を担当した医師は妄想性パーソナリティ障害と診断しています
なので、岩波教授の指摘するように統合失調症であったかどうかは疑いがあります

「週刊新潮」(5月20日号)は、岡庭容疑者の少年審判の際の供述調書(後に被害者らが起こした民事裁判に提出されたもの)の内容を詳しく報じています。岡庭は犯行後、凶器の包丁についた血を舐めたこと、それによって性的に興奮し、自慰行為に至ったことなどを供述しています。前出「文春」の記事も、担当検事の「女の子を殺すこととセックスすること、どちらのほうが、大事なんですか?」という問いに対して、岡庭容疑者が「殺すほうが大事です。そっちのほうが、興奮するからというか」と答えたというやりとりを伝えています。彼にとって殺人は性的快楽と直結しているのです。

週刊新潮のこの記事は確認していないので、記事になっている部分でのみ判断しなければなりません。が、未成年者の殺人(殺人未遂も含む)の場合、単純なケンカは別にして性的衝動との関連は考慮する必要があります。この事件のように少女の体に刃物を突き入れる行為は強姦と同じ意味を持つ、と考えられます
ならば今回の一家殺害の凶行も岡庭容疑者の性的衝動と無関係ではなく、快楽殺人との見方が出るのは当然です。さらに「命を奪う行為」は、生殺与奪の権利を握っていることを意味し、絶対的強者としての陶酔を味わえます。そうした「オレ様」的な思考も岡庭容疑者にはあるのでしょう

「発達障害」は誤診の可能性
岡庭容疑者は、2013年3月、保護処分相当とされた上、関東医療少年院に収容されました。少年院ではなく医療少年院だったのは、精神鑑定で広汎性発達障害の診断を受けたからです。
(中略)
誤って発達障害と診断された例は過去にもあります。たとえば愛知県豊川市主婦殺人事件(2000年5月)では、犯人である当時17歳の少年が、精神鑑定でアスペルガー症候群と診断され、家庭裁判所に認定されました。アスペルガー症候群は、ASDの一部です。
事件の概要を簡単に説明します。この少年は中学生の頃から人を殺してみたいという思いを抱いていたようです。そして高校生になったある日、殺人の実行を決意。「自分の感情が通じる以外の人で、若者よりは年金問題で社会のお荷物になっている老人がいい」と考え、近所の家に侵入し、64歳の主婦を見つけます。持参した金槌を頭に振り下ろした上、台所の包丁で、被害者をめった刺しにして殺害。逃走したものの、「寒くなって疲れた」と名古屋駅前の交番に一人で出頭し、逮捕されました。
彼の場合、対人関係の障害は高校時代まで一貫して見られず、限定的、反復的な行動パターンというアスペルガー症候群の診断に必須の項目も確認されていません。それにもかかわらず、裁判所は結局、少年がアスペルガー症候群であるとの診断を受け入れたわけです。
実はこの事件では精神鑑定が2回行われ、アスペルガー症候群という診断が下されたのは、弁護側の求めに応じて行われた2回目の精神鑑定です。私は、それよりも精神科医の故・小田晋氏が1回目の精神鑑定で下した、「人格障害(パーソナリティ障害)」という診断を支持します。

発達障害だから刑事罰を加えるのは適切でない、との考えが裁判官諸氏の共通認識であったかどうかは不明ですが、少年による凶悪事件=発達障害とする図式が存在したように思います
同時に、精神鑑定を担当する医師の方も「広汎性発達障害」という概念を便利に使い、診断に迷うようなケースを「広汎性発達障害」に分類してしまう傾向があったのかもしれません。すべてのケースがきちんと診断項目の判定にきれいに収まるはずはなく、多動性は見られないが物事への執着性は認められる、というように判断に迷う場合、最終的な結論は医師次第ということになります
さて、岡庭容疑者についてはあらためて精神鑑定が実施されるようなので、どのような鑑定が下るのか注目しましょう

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