ジョニー・ディップ主演映画「MINAMATA―ミナマタ―」

今の若い人たちは写真家ユージン・スミスの名前を耳にしても、ピンとこないのかもしれません
多少なりとも写真を学び、かじった人間にとってユージン・スミスは別格のアーティストです。しかも、彼の写真家としての苦難の連続であり、名声の上に胡坐を組んでいるどこかの写真家とは段違いでした
従軍カメラマンとして太平洋戦争の激戦地に入り、さく裂した砲弾の破片を全身に浴びたのですが、体の中に潜り込んだ破片をすべて摘出することはできず、体内に残った破片が神経を痛めつけるので鎮痛剤が手放せない状態になってしまいました。そして鎮痛剤だけでなく、晩年はドラッグやアルコールにも依存するようになったのです
さて、太平洋戦争で傷ついたユージン・スミスが再起のきっかけとなったのが、「楽園への歩み」と題された一枚です
幼い我が子の姿を写した一枚がスミスの写真家としてのキャリアを決定づけました

d6149-38-433565-0.jpg

そして今回紹介するように、水俣病に苦しむ人たちの姿を写した一連の作品がスミスの代表的な仕事として残されています
俳優ジョニー・ディップがユージン・スミスを演じた映画「MINAMATA―ミナマタ―」が公開される予定なのですが、その扱いを巡ってもめていると報じられています


水俣病を世界に伝えた米国人写真家のユージン・スミス(1918~78)を人気俳優のジョニー・デップが演じる映画「MINAMATA―ミナマタ―」について、地元有志らが熊本県水俣市で8月に開く上映会の後援を、市が拒否していたことがわかった。市は「映画の内容が不明」などと理由を説明している。
映画は、スミスと元妻アイリーン・美緒子・スミスさん(71)による写真集「MINAMATA」に基づく物語。2人は患者や家族が原因企業チッソを初めて訴えた水俣病第1次訴訟で、判決が出た73年の前後3年間水俣市の水俣病患者が多発した地域で暮らした。胎児性患者の上村智子さん(77年に21歳で死去)や坂本しのぶさん(64)らを撮影し、映画は実在の患者の映像も使用。デップのほか真田広之、國村隼、浅野忠信、加瀬亮、岩瀬晶子らが出演している。
9月の全国公開を前に、地元有志による実行委員会が8月に上映会を開くことを計画。6月に市に名義後援を申請したが、後援できないとの回答があったという。
市は取材に、映画が史実に即しているかや制作者の意図が不明で、被害者への差別・偏見の解消に資するか判断できない、と説明。水俣病を過去のものとして忘れたいという市民もいることを踏まえ、後援が適切か分からないとしている。
市立水俣病資料館長を務める上田敬祐・市環境課長は「名義後援はしないということで、上映会自体に反対ではない」と話す。
一方、熊本県は上映会の後援を承諾している。県水俣病保健課の担当者は「水俣病が発生した事実が発信されるという意義があり、外国でも上映されるので多くの人に関心を持ってもらい、歴史や教訓を学んでもらうきっかけになる。世界的に発信されることに意義があると考えた」と話している。
(朝日新聞の記事から引用)


水俣市ではいまだに、水俣病の患者であったことを隠したい、知られたくないと思っている人が少なくないのでしょう
なので、この映画を歓迎する人もいれば、公開してほしくないと思っている人もいるわけです
水俣病の背景については今回、触れませんが、工場の排水として流されていたメチル水銀が魚介類を介して人間の体に蓄積し、脳や神経が侵される水銀中毒です。工場側がメチル水銀の垂れ流しを認めるまで随分と時間がかかり、地元住民と工場の間で何度も衝突が繰り返されました。その後裁判の結果、工場の責任が明確になり、被害住民への補償が行われています
ただ、水俣病(メチル水銀中毒)のため、命を落とした住民もいますし、胎児の状態で中毒となり先天性の異常をもって生まれたこどもたちも多くいました(彼ら、彼女らは長く生きられませんでしたし、将来を悲観して我が子を手にかける親もいたというのが実際です)
この重い現実が映画でどう描かれているのかは不明ですが、映像として世に問う意義はあるだろうと思います
単に写真家ユージン・スミスをヒーローとして描くような薄っぺらい映画であってほしくはありません
スミス自身、水俣に居を構えて撮影を続ける間に警察によって逮捕されたり、工場側の雇った暴力団に襲撃され骨を折られたりと、さんざんな目に遭っているわけで

MINAMATA~ユージン・スミスの遺志~【テレメンタリー2020】


(関連記事)
震災映画のモデル男性 強姦容疑で逮捕
やらせで批判の映画「ガレキとラジオ」復活上映の怪
やらせで批判されたドキュメンタリー映画「ガレキとラジオ」
映画「ドリーミング村上春樹」
東京五輪公式映画 河瀨直美監督起用
カンヌ審査員賞 是枝監督「そして父になる」
是枝監督のパルムドール受賞を羨む中国
もう一度映画「小さな恋のメロディ」を考える
日本だけ大ヒット 映画「小さな恋のメロディ」
「ハリー・ポッター」シリーズはアカデミー賞から無視されている
漫画実写化は是か非か、を巡る議論
ハリウッドの大コケ映画「スーパーマリオ・ブラザーズ」
韓国が勝手に映画化した「北斗の拳」実写版
実写版「ジョジョの奇妙な冒険」大コケ
実写化「岸辺露伴は動かない」成功した理由