大口病院不審死 久保木被告の精神鑑定結果(その2)

横浜市の大口病院で入院患者の点滴に消毒液を混入させ、3人を殺害した元看護師久保木愛弓被告の裁判が続いています。10月13日の第7回目の公判では精神鑑定にあたった医師が出廷し、見解を説明しました。10月19日の第8回公判では、起訴後に弁護人が請求した2回目となる精神鑑定を担当した岩波明昭和大学教授が出廷し、見解を説明しています。岩波教授は犯行時、久保木被告が鬱病を発症し、加えて統合失調症の前駆的症状を呈しており、心神喪失状態にあったと鑑定結果で述べています
東京新聞の記事から引用します


【詳報・第8回】3人殺害認める久保木被告「死刑にすべきではない」と主治医 世のゆがみ背負わせるのは正義か…
起訴後に精神鑑定を行った医師が、証人として出廷する。検察側は久保木被告に刑事責任能力があったとしている。この医師は「犯行当時、統合失調症が発症し始めていた可能性がある」と診断。弁護側はこれに基づき「統合失調症の影響で、心神耗弱の状態にありました」と減軽を求めている。医師は法廷でどのように証言するのか。
医師が説明 犯行時「統合失調症の前駆症状の可能性」
法廷の久保木被告は、上下グレーのスーツにめがね姿。裁判員の座席の前に仮設された席に3人座っている。一つの席には「司法修習生」と書かれた札が置かれていた。
岩波明医師が入廷し、証言台で深く一礼して座った。裁判長が「経歴、業績は事前にいただいた資料の通りですか」などと質問するやり取りのあと、おおよそ1時間をめどとして、岩波医師による説明が始まった。
説明は資料に基づいて進められたが、傍聴席から見えるモニターには映し出されなかった。
岩波医師は昭和大医学部精神医学講座の主任教授を務める。久保木被告が犯行時の精神疾患の有無や犯行への影響、鑑定時の精神状態を鑑定した。
鑑定の結果、犯行時は「うつ病が再発、統合失調症の前駆症状の可能性があるが、断定は困難」と診断した。また、犯行が「幻聴、被害妄想と密接な関係を持つ根拠は認められない」としつつも、非合理的で短絡的な行動、問題行動は「潜行性の統合失調症あるいは前駆症状に基づく」との認識を示した。
鑑定時には、統合失調症が進行し、入院治療が必要と考えた。
実習苦手「C」が9つ
続いて岩波医師は、久保木被告の生い立ちや職歴を語り始めた。
小学校時代は「おとなしくて、友だち少なかったが、近所の子どもと遊んでいた。要領があんまりよくなくなかったが、思いやる心が育っていた」という。一方で、「小学校の通知表を見る限り、発達障害の痕跡は見つからなかった」と語った。
神奈川県伊勢原市の公立中学校時代は、成績は中くらい。音楽と読書が趣味だった。
同県立高校に進んだ後は、学校になじめず、親しい友人はおらず孤立していた。推理小説が好きだった。ただハンバーガー店とスーパーマーケットでそれぞれ1年ずつアルバイトはしていて、スーパーでは経営者からかわいがられていた。岩波氏は、場所を与えられると適応できていた、との見方を示した。
看護学校に進学した。学科の成績は中くらいだったが「実習は苦手で、だいぶ下だった」という。学科は30科目のうち、Cは3つのみで、ほかはA、Bだったが、実習は24科目のうちCが9科目あったという。
(中略)
好きなタレントの雑誌、汚い手で触ったから…
職場では、声をかけても無視する同僚がいて、陰口を言われていると感じていた。調子が悪くても同僚、上司に相談できなかった。夜勤後にコンビニで菓子を買って過食したり、仕事をやめたいと思っていた。事件後の16年末、神奈川県伊勢原市内の精神科クリニックでPTSDと診断された。
また2018年9月には、検察官の鑑定留置で入院した病院で、他の患者の耳と鼻に洗剤をつめた。
続いて岩波医師は、久保木被告が2019年8月、鑑定のために岩波医師の病院に入院した際の出来事を述べた。
同年9月に入ると、久保木被告は便器に雑誌をつめこみ、水浸しにした。汚い手で自分が好きなタレントが載っている雑誌を触ってしまったのが理由だったという。
10月になると、複数の看護師が私の方を見て笑っているとか、「死ね」などと悪口を言っているのが聞こえるようになった。「人を殺した私が言うのも変だが怖い」といい、「特殊部隊は何分でつくか」とも怯えたりした。入り口にバリケードのようにマットレスを置いて、「誰も入ってくるな」と言ったり、毒が入っていると思い込んだのか、拒食をして体重も減った。廊下に向かって助けてくれとか、警察呼んでくれとか言ったりした。
(中略)
「あいまいな診断でやすい」
久保木被告は内向的な性格で、対人関係が上手でなかった。検察側が採用した起訴前の精神鑑定では、ASDと診断された。根拠の一つに対人関係の問題をあげている。岩波氏は「多くの精神疾患では対人関係で問題がある」と指摘し、根拠にはならないとの考えを示した。
起訴前鑑定をした精神科医の田村由江氏は、両目まぶたを閉じるくせが常同運動に該当するとしている。これに対して、「子どものころから、大人になっても症状が必ず存在する。それがなければ診断にならない」と反論。
米国精神医学会の診断基準には、常同運動の具体的な頻度や強度は記載されていないため、「あいまいな診断でやすくなっている。物心ついたときから常同を繰り返す患者が大部分。積極的に小児期に確認されていない症状でASDと診断することは通常行っていない」と述べた。
犯行時の統合失調症「断定できない」
大口病院の勤務時に、犯行前にエプロンを切るといった問題行動を取ったことと統合失調症の症状との関係も説明した。
岩波氏は「反社会的、非倫理的な犯罪行為ともいえることを短絡的で衝動的にするのが統合失調症。統合失調症の症状でよく見られる」と話した。
続いて検察が質問した。岩波氏は、久保木被告の入院時の主治医ら計3人で鑑定した。主治医らと情報交換した上で、鑑定書は岩波氏が書いた。「2人のカルテは適宜参照した」と話した。
犯行時に統合失調症を発症していたのか。岩波氏は「断定は正直できない。情報が不足している」「私は前駆状態と考えているが、断定まではしかねる」といい、統合失調症の前駆状態だった可能性があるとの見方を示した。
(以下、略)


長々と引用しました。元記事はもっと長いわけで、適宜省略させてもらいました
記事のタイトルにもなっている「世の中のゆがみをこの人に背負わせて、『はい、死刑』というのは正義なのか」という発言は岩波教授のものではなく、久保木被告が通院していた精神科のクリニックの主治医の発言です
検察官が岩波教授提出の資料の中に上記の発言が盛り込まれていたと指摘したのは、東京新聞の記者にすれば「精神鑑定の客観性に疑問を投げかけるため」と推測しています。つまり、久保木被告を死刑にしたくないとの思いの上で精神鑑定が行われ、結果が偏ったものになっていると検察官は言いたいのでしょう
さて、起訴前の田村由江医師による鑑定と、起訴後の岩波明教授による鑑定では大きな違いがあります
ただ、上記の記事にも書かれているように久保木被告のこども時代がどうであったのか、説明できる資料が乏しいという制約があり、断定的なことは言えないというのが実際でしょう。学校の教師とて、児童1人の様子を注意深く観察し、記録しているわけではありません。親にしても自分のこどもを育てた経験しかないわけで、他人のこどもと細かく比較し行動を観察したりはしません。そのため久保木被告がどのようなこどもであったのか、曖昧なままです。それでも小動物を殺して遊ぶような、残虐性をこどもの頃から示していたとは考えられないのであり、反社会的な価値観を有していたとも思えません
生来のさまざまな要因を内に有していたとしても、久保木被告は看護師という職に就いてから大きく変貌したと推測されます
どちらの鑑定を採用するかと問われれば、岩波鑑定の方が「断定しかねる」と統合失調症である可能性を留保している点が、説得力を欠いているように受け取られるのではないでしょうか?
医師として、学究の徒として乏しい判断材料の中では断定するのが難しい、と正直に述べていると自分は評価するところですが、裁判というシロクロをつける場としては説得力を欠くものとして扱われるのは仕方がありません
精神鑑定のため入院した間に奇矯、奇抜な行動があったわけですが、それがただちに統合失調症である証拠、にはなりません。精神的な混乱、自意識の衰弱、極度の不安や疲弊を抱えていれば、大なり小なり奇矯な行動が観察されるものです

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