神戸5人殺傷事件を考える 無期懲役求刑

2017年7月、神戸市北区で祖父母やに実母、近隣住民ら5人を殺傷したとして殺人及び殺人未遂など起訴された竹島叶実被告に対し、神戸地検は無期懲役の求刑をしています
自分の予想では死刑を求刑するものと思っていました。死刑を求刑しても判決では、統合失調症による影響があったと裁判官が判断し、罪一等を減じて無期懲役にするものと検察が読んだ上で、あえて死刑を求刑するのではないかと考えたわけですが、外れました
検察の求刑が無期懲役ですから、裁判官が考え違いをしない限り死刑判決はあり得ません。判決は無期懲役か、あるいは有期刑になるのでしょう
検察側は論告求刑で、被告は統合失調症による妄想の影響下にあったとし、「完全責任能力があれば死刑を選択するべきだが心神耗弱状態だった」として、無期懲役を選択したと述べています


神戸市北区で2017年、家族や近隣住民ら3人を殺害、2人に重傷を負わせたとして殺人罪などに問われた無職、竹島叶実(かなみ)被告(30)の裁判員裁判が25日、神戸地裁(飯島健太郎裁判長)であった。検察側は「結果は極めて重大で取り返しがつかない」として無期懲役を求刑。弁護側は「心神喪失状態だった」として無罪を主張し、結審した。判決は11月4日。
竹島被告は事件当時、統合失調症の影響で幻聴を聞いていたとされ、刑事責任能力の有無が争点。
検察側は論告で、竹島被告が逮捕後、「大変なことをした」と警察官に話していた点などから、「犯行を思いとどまることができた」と指摘。責任能力が完全に失われていない心神耗弱にとどまると主張した。
一方、弁護側は竹島被告が「哲学的ゾンビを倒せば知人女性と結婚できる」と思い込み、殺傷した相手を「ゾンビと認識していた」と主張。鑑定した医師の意見を踏まえて「妄想に支配されていた」と述べた。
法廷では、死亡した辻やゑ子さん(当時79歳)の長男が意見陳述。「突然母がいなくなり、被告を憎んでいる。罪を軽くされたくない。強く強く死刑を願う」と訴えた。
竹島被告は現在、服薬で症状が改善しているとみられ、最終意見陳述では「被害者の方々には非常に申し訳ないことをした」と謝罪した。
起訴状などによると、竹島被告は17年7月16日早朝、自宅で祖父、南部達夫さん(当時83歳)と祖母観雪(みゆき)さん(同83歳)を金属バットで殴ったり、包丁で刺したりして殺害。止めに入った母親(57)を殴って重傷を負わせた。さらに、近くの民家に侵入して辻さんを刺殺。別の小屋にいた近隣女性(69)にも重傷を負わせたとされる。
(毎日新聞の記事から引用)


補足すると、犯行の数日前、竹島被告は株式投資を扱うインターネットの掲示板を見ていて、「13」という数字に目が止まります。「13」は竹島被告が以前通っていた専門学校で片思いだった女性の出席番号です。そこから妄想が連鎖し、彼女と結婚するには「哲学的ゾンビを倒さなければならない」と思い込み、凶行に至ったと竹島被告は犯行の背景を説明しています
随分と荒唐無稽な話に聞こえるのですが、当時の竹島被告の頭の中では筋道立った展開だったのであり、疑いもしなかったのでしょう
ちなみに竹島被告は精神科や心療内科で診察を受けた経歴はない、と判明しており、いつから統合失調症の症状が出始めたのかよく分かりません。引きこもりの息子を説得し、診察を受けさせるのは困難であるのは十分想像できるものの、もっと早く医療機関なり保健所に相談していたなら、3人が殺害され2人が重傷を負う事態は避けられたかもしれません

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「記憶がない」は通用せず 塩尻女性強姦殺人

刑事裁判では被告が罪を免れようと精神病のふりをしたり、多重人格や記憶喪失を装ったりするケースがあります
当ブログで取り上げてきた事件でも、日立市で妻子を殺害し放火した小松被告は犯行時の記憶を喪失を主張していましたが、一審では死刑が言い渡されています。福岡で女性を殺害した佐久田なつき被告は事件前に解離性同一性障害との診断を得て通院していた事実はあり、犯行は別人格によるものと主張しましたが、懲役22年の判決を言い渡されています。大阪市西成区で看護師の女性を殺害した後、中国に逃亡していたオーイシ・ケティ・ユリ被告も解離性同一性障害を主張し、犯行は別人格によると裁判で無期懲役判決が下されています
秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込み、17人を殺傷した加藤智大死刑囚も「犯行時の記憶がない」と主張していましたが、裁判所は刑事責任能力に問題はなかったとして死刑判決が確定しています
今回は2005年4月、長野県塩尻市に住んでいたフィリピン人女性(19)を山の中に連れ出し、強姦した上で殺害、キャッシュカードで現金を引き出し奪った強盗強姦殺人事件を取り上げます。問題は一審で無期懲役が言い渡された後の控訴審で、被告が突然「記憶喪失」を主張したところにあります
主犯とされた高木正幸と川上美香は一審で無期懲役、強姦のみに加担した宮坂裕は懲役7年の判決となりました。判決を伝える長野日報の記事を以下、引用します


塩尻市の山林で昨年4月、諏訪市内のフィリピン国籍の女性=当時(19)=が殺された事件で、強盗殺人や強盗強姦などの罪に問われた、ともに住所不定、無職の高木正幸(25)=本籍下諏訪町=、川上美香(23)=同大町市=両被告の判決公判は15日、長野地裁で開いた。土屋靖之裁判長は「短絡的かつ身勝手極まりない犯行の動機に酌むべき点は全くない」とし、両被告に求刑通り無期懲役を言い渡した。
判決理由で、土屋裁判長は昨年3月中旬ごろ、女性が妹に送った携帯電話の電子メールに、川上被告を敬遠する内容があったことを同被告が知り、腹を立てたことが犯行の発端となったと説明。「若年の両被告が社会性に乏しく未成熟なため、自己の行為の規範的な意味合いや他者の人格ならび立場を十分顧みることができなかった」と指摘した。
前回公判で、川上被告の弁護人が「主導的立場にあるのは高木被告。川上被告は従っただけ」とし、同被告の関与が部分的であった点から酌量減刑を求めたことについては「一連の経緯、行動などに照らせば、川上被告も各犯行遂行上、重要な役割を果たした」と退けた。
判決によると、両被告は昨年4月1日午後10時ごろ、塩尻市片丘北熊井の林道に駐車した乗用車内などで女性の顔面を殴るなどし、共犯の下諏訪町社、元会社員宮坂裕受刑者(24)と共謀して約5時間にわたり女性を乱暴した。
宮坂受刑者が現場を立ち去ったあと、両被告は女性の首をベルトで締め付けるなどして殺害。山林内に死体を捨てた上、奪ったキャッシュカードを使い、松本市内のコンビニエンスストアのATM(現金自動預払期)から現金11万9000円を引き出すなど、女性の金品を盗んだ。
(長野日報の記事から引用)


無期懲役判決が不服だったのか、控訴審で高木正幸被告は「記憶を失った」と突如、主張し始めます。いかにも唐突で、刑罰を免れるための嘘としか言いようがないのですが、高木被告にすれば最後の切り札のつもりだったのかもしれません
裁判の傍聴記録を集めたウェッブサイトから引用します

傍聴記

(控訴審における、A=高木被告に対する弁護人質問から引用)
-弁護人によるA被告への被告人質問-
弁護人「どのような理由で控訴したのですか?」
A「おぼえてないです」
弁護人「あなたは強盗殺人などに関わったことを覚えていますか?」
A「おぼえてないです」
弁護人「いつ頃から記憶が無くなったのですか?」
A「分からないです」
弁護人「後ろに座っている女性が誰であるか分かりますか?」
A「元妻のBです」
弁護人「Bさんの記憶は覚えているのですか?」
A「はい」
弁護人「その女性との間の子供は覚えていますか?」
A「覚えてないですけれど先生にこれが自分達の子供だよと言われました」
弁護人「記憶を失うようなきっかけがあったのですか?」
A「気が付いたらなくなっていました」
弁護人「いつごろからですか?」
A「忘れてしまいました」
弁護人「東京拘置所で薬を飲んでいますか?」
A「安定剤と●●を飲んでいます」
弁護人「長野で薬を飲んでいた記憶はありますか?」
A「ないです」
弁護人「夜は眠れていますか?」
A「眠れてないです」
弁護人「なぜですか?」
A「寝ようとすると悪い夢見るからです」
弁護人「どんな夢ですか?」
A「殺される夢とか・・・」
弁護人「どうやって殺されるのですか?」
A「包丁で刺されたり、首をしめられたりして殺される夢を見ます」
弁護人「誰に殺されるのですか?」
A「男の人と女の人です」
弁護人「若い人ですか?年取った人ですか?」
A「若いです」
弁護人「毎日のようにですか?」
A「ほぼ毎日」
弁護人「第1審では死にたい気持ちがありましたが現在はありますか?」
A「あります」
弁護人「なぜ死にたいと思うのですか?」
A「生きていてもつまらないからです」
弁護人「東京拘置所では1人部屋ですか?何人かと一緒の部屋ですか?」
A「1人部屋です」
弁護人「1日中会話しない日が続くのですか?」
A「はい」
弁護人「Y1さんを知っていますか?」
A「知ってないです」
弁護人「宮坂裕さんを知っていますか?」
A「知っています」
弁護人「宮坂裕さんとはいつから一緒だったのですか?」
A「中学校時代から一緒です」
弁護人「成人してから会ってますか?」
A「わからないです」
弁護人「お母さんの名前は何といいますか?」
A「Aさちこ」
弁護人「お母さんに手紙を出しましたか?」
A「はい」
弁護人「お母さんと暮らしていたことはありますか?」
A「あります」
弁護人「いつごろまで暮らしていましたか?」
A「はっきりおぼえてないですけれど・・・・・」
弁護人「あなたは仕事をしていましたか?」
A「だいたい」
弁護人「何というところに勤めていましたか?」
A「北斗急送です」
弁護人「いつ頃までですか?」
A「忘れてしまいました」
弁護人「お弁当屋さんに勤めていましたか?」
A「おぼえてないです」
弁護人「あなたは記憶が無いのに人を殺す根拠はありますか?」
A「殺してもいないのに殺したというのもおかしいと思います。」
弁護人「あなたの大切な人を誰かに殺されたらどういう気持ちになりますか?」
A「許せないと思います。」
弁護人「あなたが誰かを殺したらどういう気持ちですか?」
A「申し訳ない気持ちです。」
弁護人「Bさんに手紙を出した記憶はありますか?」
A「あります」
弁護人「東京拘置所の発信記録を見れば分かるけれど何回出しましたか?」
A「おぼえてないです」
弁護人「どういう内容ですか?」
A「記憶にないです」
(以下、略)

弁護人に続いて検察官も被告人質問をしていますが、引用は割愛します。全文を読みたい方は上記のウェッブサイトにアクセスしてください
「記憶にない」と主張して誤魔化そうとする気満々、というのが伝わってきます
もちろん控訴審は高木被告の主張を退け、一審どおり無期懲役判決を言い渡しています
他方で、共犯として無期懲役判決を受けた川上美香被告も判決を不服とし、自分は高木被告の指示に従っただけで事件への関わりは少なかったと主張して控訴していたのですが、これも退けられています。上記の「傍聴記」にも高木被告とのやりとりがありますので、参照してください。被告人質問を終えて川上被告が席に戻る際、法廷にいた被害者遺族を睨みつけた、と傍聴人は観察しています
付言すると、殺害された女性は松商学園高校を卒業し、日本人の友人・知人も多かったようです。女性と交際していた男性は彼女の死を悲観し自殺したのだとか。痛ましい事件です

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