京王線刺傷事件を考える ジョーカー男の心理

記事を1本書いて報酬を得るライターという仕事があります。編集部の注文に応じそれらしい内容の記事を書いて提出すれば、記事の質にかかわらず報酬を手にできるのでしょう
しかし、あまりにレベルの低い記事を書いたのでは自らを貶める結果となり、次の依頼が来なくなるのでは?
ダイアモンド・オンライン掲載の記事で、ノンフィクションライター窪田順生の書いた『京王線事件の「ジョーカーなりきり男」、ナルシスト型犯罪を防ぐ効果的な方法』の内容が結構アレなので、取り上げます。一言で表現すると「陳腐」です
以下、記事からの引用部分は赤字で、自分のコメントは黒字で表示します


京王線事件の「ジョーカーなりきり男」、ナルシスト型犯罪を防ぐ効果的な方法

現実とフィクションを混同するというあまりに幼稚な思考回路に衝撃を受ける人も多いだろうが、特に珍しい話ではない。
凶悪な事件に手を染める人の中には、映画、アニメ、コミックなどに影響を受けるケースが少なからず存在するからだ。
フィクションの影響を受けたと見られる犯罪 表沙汰にされないものも数知れず
例えば有名なところでは、2004年に小学6年生女児が同級生を殺した事件。加害者はホラー小説や、中学生が殺し合う小説「バトル・ロワイヤル」のファンで、実際に同人小説まで発表していたという。
「マンガ、アニメ、ゲームが悪いみたいな方向へもっていくな!」というお叱りが飛んできそうだが、筆者もエンタメ作品の暴力的な描写が犯罪を助長するなどとは思っていないし、それらを規制するとかいう話には反対だ。
しかし、凶悪犯の中には、架空の世界のキャラクターに憧れていたり、ストーリーに影響を受けていたりする人間がいる。抗議や規制というややこしい話に発展するのを避けて、表沙汰にされていないケースも含めればかなりある。
(中略)
が、最終的に報じたのは、「ホラー映画の影響」だけだった。出版社としても、「アニメやマンガが犯罪を助長したかも」というストーリーは受け入れ難いし、人気アニメのファンから怒りの抗議がきても面倒なだけなので「ボツ」にしたのである。
凶悪事件の裏側にはこんな話がゴロゴロ転がっている。服部容疑者も犯行の状況に鑑みれば、典型的な「キャラへの憧れ型犯罪者」だ。

記者の問題意識として、映画やアニメ、コミックの影響を受けた事件があると主張するのはよいとしても、「キャラへの憧れ型犯罪」などというカテゴリーにこじつけるのはどうか、と思ってしまいます
「犯罪心理学を学んでもいない者が犯罪を語るな」などと、原理主義的な主張をするつもりはありませんが、雑誌や新聞の記者をやっていた=犯罪の表も裏も熟知しているとは言えません。過去の猟奇的事件を扱った報道では、メディア(記者)があれこれ誇張し、尾ひれをつけ、本質からかけ離れた犯人像を世間に撒き散らしたものもあります。そこに「キャラへの憧れ型犯罪」などという、とんでもない類型をでっち上げ、虚像を流布させたいのか、と

「キャラへの憧れ型犯罪者」 服部容疑者が電車を選んだ背景とは
2019年に公開され世界的ヒットとなり、アカデミー主演男優賞も獲得した映画「ジョーカー」は、心優しい善良な男、アーサーが社会の不条理に打ちのめされていく中で、悪のカリスマ・ジョーカーへと変貌していくストーリーだ。その中でピエロの仮装をしたアーサーがはじめて殺人を犯すのが、他でもない地下鉄の車両の中だ。自分を殴ってきた男たち3人を銃で撃ち殺す。この経験をきっかけにアーサーの狂気が暴走していく。つまり、ジョーカーは地下鉄内の殺人によって「覚醒」したのだ。
報道によれば、服部容疑者は調布駅で、京王線の新宿行きの急行に乗車した直後に乗客を刺した。そして、国領駅付近で火を放った。
もっと多くの乗客が乗り込む新宿駅付近で犯行に及んでもおかしくないが、なぜかそうしなかった。
これは、あくまで勝手な推測だが、筆者は犯行を起こした区間が「地下鉄」だったからではないかと考えている。調布駅を出た京王線は地下を走っているが、国領駅を越えたあたりで、地上に上がる。映画「ジョーカー」の“覚醒シーン”の風景と異なってしまう。だから、「ジョーカーなりきり男」としては地下を走っている間に、どうしても凶行に及ばなくてはいけなかったのではないか。

ニュース番組で繰り返し流された動画では、ジョーカーらしき衣装を着た服部容疑者が電車のシートに座り、タバコを吹かす姿がありました
大胆不敵、と見た人も多かったのでしょう
しかし、撮影した人は、「服部容疑者のタバコを持つ手が震え、決して目を合わせようとはしなかった」と説明しています
「殺せなくて残念だ」と口にしている服部容疑者ですが、「殺せなかった」のは事実であり、彼にそこまでの覚悟はなかったのでしょう。つまり「覚醒」などしていないのであり、殺人鬼になれるほど鬼ではなかったという話です
タバコを持つ手が震えたのは一時的な興奮状態にあったためで、ビビっていたというわけではないでしょう。しかし、思い描いたような大量殺人には踏み切れず、躊躇してしまったものと解釈します。服部容疑者はナイフを所持していたのですから、本当に大量殺人を遂行するなら逃げる乗客を追いかけ、背中を刺すのは可能だったはずです。ですが、乗客を追いかけず、座り込んでしまいました。犯行を断念したのです。これは彼が狂気にかられていたのではない証拠、と思われます

もちろん、すべての凶悪犯罪者が当てはまるわけではないが、これまでの大量殺傷事件の犯人にも、「強烈な自己愛」「子どもっぽさ」が見られることが多い。
例えば、秋葉原で男女17人を無差別に殺傷した犯人に対して、精神科医などは、自己愛が思春期で抜けきれなかったと分析している。
いろいろな犯罪者の話を聞いてきた筆者も、これは非常に納得する。自己愛や自尊心が異常なまでに強いので、それが満たされなかったり、傷つけられたりすると、過剰な自分を守ろうとして他人を攻撃するのだ。
しかも、考え方が子どもっぽいので、フィクション作品などの影響を受けて、今回の「ジョーカーなりきり男」のようにキャラクターに自分を投影してしまう。些細なダメージで、社会に虐げられているとか、もう死にたいと思いつめて、「悲劇の主人公」のように振る舞う。そんな風に「強すぎる自己愛をこじらせた犯罪者」が多い印象がある。要はナルシストなのだ。

この部分は同意できます。犯罪者の中には自己愛が強く、自分本位の考え方に終始する者が珍しくありません
服部容疑者がジョーカーのどこかに共感し、自身を重ねたのは確かでしょう。が、彼がバットマン・コミックの熱烈な読者であったとは思えないのであり、あくまで服部容疑者が作り上げたジョーカー像を信奉していた、と考えるしかありません
そして多くの場合、自己愛に凝り固まった人間に説教などしても無駄であり、自己中心の世界観、価値観を手放したりはしません
刑罰を受け、長年服役したとしても、自己愛どっぷりの人格が変容するものかどうか?
日本の刑務所は当然ですが、人格改造をする施設ではありません(中国なら政治犯収容所で人格改造までやってそうですが)

テロや大量無差別殺人は、社会に恐怖を与えて、自分の存在を認めさせることが目的なので、服役年数を増やすなどの厳罰化はほとんど効果がない。だから逆に、このような「恥」を抑止力とする方向性も検討していいのではないか。
今回のような事件が起きると、ワイドショーなどでは、「犯人の心の闇」とか「社会への復讐」なんてたいそうなストーリーをつくって、事件映像を繰り返し流し、コメンテーターたちが、「怖いですねえ」「こんな動機で人を殺すなんて信じられない」と口々に言う。
が、実はそれは承認欲求を満たしたい犯罪者側の思う壺だ。しかも、再発防止という観点からも最悪だ。
服部容疑者が今年8月の小田急線殺傷事件を参考にしたように、今回の事件を社会が怖がれば怖がるほど、「よし、俺も世間をあっと言わせてやるか」なんて模倣犯が出てきてしまう。
無差別殺傷のような身勝手な犯罪を防ぐには、その人間を「悪」「モンスター」などと恐れてはいけない。必要なのは、あまりに幼稚で自己中心的な思考を「カッコ悪い」「恥ずかしい」と社会全体で再認識することではないか。

長文の記事の結論としてははなはだ陳腐な言いようです。パソコンに向かい、一杯やりながら書いたのではないか、と勘ぐりたくなります
テロリストや殺人犯を指差し、嘲笑ったところで何も解決などしません。犯人の言い分はともかく、彼らなりの動機や目的があって犯行に至っているのですから、「カッコ悪い」とか「恥ずかしい」と言われようとその犯行を思いとどまったりはしないでしょう
現代の刑罰思想にもいろいろな考え方があります
日本の場合は「定役を科す」との考え方を採用しています。これは労役によって罪を償わせるものです。アメリカは奴隷労働をさせてはいけないとの考え方が定着したため、受刑者に労役を課さないやり方が一般的です。なので、アメリカの刑務所で受刑者は働かず時間を持て余しているわけです。本人が職業訓練を受けたいと希望すれば、何らかの作業に従事する選択肢はありますが、多くの受刑者は職業訓練も受けず、漫然と刑務所の中で過ごしています(麻薬依存や性依存から脱却するための治療プログラムもありますが、受講するかどうかは本人次第です)
日本では江戸時代、見せしめのための刑があり、不義密通をした者は街角に晒されました。が、現代では見せしめの刑罰は採用されていませんので、上記の記事にあるような「恥をかかせる刑」を執行する余地はありません
記者はいったい何を考えてこんな記事を書いたのか、と呆れるばかりです

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神戸5人殺傷事件を考える 心神喪失で無罪判決

2017年7月、神戸市北区で祖父母や近隣住民らを刃物で切りつけ、3人を殺害し2人に重傷を言わせれ起訴されていた竹島叶実被告に対し、神戸地方裁判所は心神喪失を認め、無罪を言い渡しています
精神疾患により刑事責任能力を失ったと認められる場合は、心神喪失として無罪を言い渡すというのが刑法上の規定です
神戸地検は統合失調症の影響で刑事責任能力の一部を失ったと判断される心神耗弱だとして、死刑から刑一等を減じた無期懲役を求刑していました


犯行当時の男性を「心神耗弱(こうじゃく)状態」とした検察側は無期懲役を求刑、弁護側は無罪を求めていた。
刑法39条では「心神喪失者の行為は罰しない。心神耗弱者の行為は刑を減軽する」としている。男は罪状認否で事実関係は認めたものの、弁護側は事件当時、統合失調症により善悪を全く判断できない「心神喪失状態」だったとして無罪を主張、最大の争点は男性の刑事責任能力の有無だった。
事件は2017年7月16日早朝に発生、起訴状によると男性は神戸市北区の自宅で祖父母(いずれも当時83歳)の首を包丁で刺すなどして殺害後、近くに住む女性(当時79歳)も刺殺。さらに母親と近所の女性も金属バットなどで襲い、重傷を負わせたとされる。
10月13日の初公判で男性は、5人を殺傷したとする起訴内容については「間違いない」と認めた。そのうえで弁護側は「統合失調症は重度で心神喪失状態だった」と無罪を主張した。
検察側は、男性が犯行の2日前、インターネットの書き込みで、専門学校に通学していた際の同級生の女性のものとみられる投稿を解析して、自分へのメッセージと受け止めた男が「自宅近くの神社へ行けば、この女性と結婚できる」との妄想を抱いて犯行を決意したと指摘。善悪を判断する能力は低下していたが、一部は残されており、「心神耗弱(こうじゃく)状態」だったとして無期懲役を求刑していた。
判決公判の冒頭、裁判長は判決理由を関係者に説明したいなどとして、主文の言い渡しを後回しにしていた。
神戸地検は男性について、起訴前に2度の鑑定留置(それぞれ別の鑑定医が担当)を実施した。10月19・20日(第5・6回公判)に行われた証人尋問では、被告の精神鑑定に関わった精神科医2人が、異なる意見を示した(※なお、精神科医は法廷内の発言で「責任能力」という文言を使用していない)。
最初に担当した鑑定医は臨床精神医学が専門。事件から約1か月半経過した2017年8月~2018年1月までに11回にわたり面会した。この医師によると、11回という面会回数は多い部類に入るという。
理由として▼重大事件であること▼事件(犯行)までに精神科の通院歴がなく、きちんと精査すべき▼精神を安定させるための投薬の影響 を考慮したことを挙げた。この医師は男を統合失調症としたうえで「ストレスを一気に爆発させるタイプ」との鑑定結果を示した。
判決で裁判長は、最初に精神鑑定した医師の信用性は否定できないとした。そのうえで、遅くとも祖母(最初の被害者)を襲撃した時点で、正常な精神作用が機能しておらず、被告人とこの女性以外は人間ではないという妄想の精神症状の圧倒的な影響のもとで各犯行に及んだなどと指摘、弁護側の主張する「心神喪失」状態にあったとの合理的な疑いが残るとして、無罪を言い渡した。
(ラジオ関西の記事から引用)


事件発生から4年を経て辿り着いた結論が、心神喪失による無罪判決です
とても遺族は納得できないところでしょう
例によってニュースサイトのコメント欄には、「人殺しを無罪放免にするのか。再び殺人を犯したら誰が責任を取るのか?」という書き込みが見られます。まず、刑事裁判の手続きを知らないまま、感情まかせにコメントするのは止めた方がよいわけですが
神戸地裁の無罪判決が出たからといって竹島被告が即、拘置所から出てくるわけではありません。検察が控訴し、併せて勾留請求をすれば竹島被告は拘置所に勾留されたままです
無罪判決が確定した場合でも、精神疾患が疑われ他人に危害を加える可能性のある元被告については、精神保健福祉法の規定により措置入院(強制入院)の手続きが取られます。都道府県知事の指定する医師2人が診察をし、入院させるかどうかを決定します
なので、無罪判決が出たら精神疾患が疑われる被告でもすぐ野放しになるかのように思い込むのは間違いです
ともあれ、この事件については検察が控訴するでしょう
追記:11月16日付けで検察が控訴手続きを取りました

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