村上春樹論

数年前、図書館の一角で村上春樹に関する評論を数冊見つけました
あれから月日もたち、村上春樹を取り上げた評論の数はさらに増えていると思われます
どこかにコアな村上春樹マニアがいて、既刊の村上春樹論や作品論を網羅したデータベースを構築してくれているのかもしれません
さて、数ある村上春樹論の中から小森陽一の「村上春樹論 海辺のカフカを精読する」(平凡社新書)を取り上げます
最初に断っておきますが、これは噴飯物の村上春樹論です。食事をしながら読むと必ず噴きます。コーヒーなどの飲み物も禁止です
カバーの折り返しに「暴力が前面に現れつつある「九・一一」後の世界に記憶と言葉の大切さを訴える、渾身の村上春樹論」と印刷されています
この宣伝文を読んだだけで「もう駄目だ」と感じてしまう人も多いでしょう
小森陽一らアチラ系の人たち(筑紫哲也とか)はこうした無駄なセリフを好んで使います。いわく、「ベトナム戦争以降、文学は可能か」とか「湾岸戦争以降、文学は可能か」、あるいは「九・一一以降、文学は可能か」などなど
「九・一一」以降世界は変わってしまった、なんてセリフを臆面もなく使う人たちです
「九・一一」以降も世界は何ら変わりなく、我々は日常を過ごしているのですが
さて中身はスカスカですから時間もかからず読めます。途中から「海辺のカフカ」から離れ、明治以降の近代日本を徹底して罵倒する文章が続きます(読者は置き去り)
小森陽一が本書を書くにいたった背景については後日、取り上げたいので今回は省略し、結論部分をざっと眺めてみましょう
他者との共感を欠いたこどもが増え、その結果陰惨な少年犯罪も増えていると小森は指摘します。その上でカフカ少年の抱く父親殺しの幻想を厳しく批判します。幻想の中であっても父親を殺したい、などと欲するなどとんでもないと
フロイト先生も地下で苦笑いしているのではないでしょうか
小森のように「凶悪な少年犯罪が増えている」と、ジャーナリストや教育評論家が警告を発してますが、未成年者による殺人は戦後一貫して200件前後で推移しており、最近になって激増しているわけではありません
犯罪白書を見れば分かります
むしろ増えていないという事実の方がはるかに重大であるかもしれません
「九・一一以降、文学は可能か」と問う以前に、戦後日本は未成年者による殺人が激増しない安定した社会であり続けた、という事実を直視すべきです
小森はかくして「海辺のカフカ」を陰惨極まりない処刑小説であり、不道徳のきわみだと決め付けます
自分はむしろ、あっけらかんとしたほど健全な少年の物語であると感じたのですが、どうでしょうか

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