失敗が語る

強迫神経症の症状に悩まされている少年と面接しているとき、つい鼻の

頭がかゆかったので指でかいてしまいました。少年は急に険しい顔にな

り、怒りだしたのです

今回は自分の失敗が生んだ経験の話を書きます

男児の強迫神経症で頻繁に手を洗う常同行動が見られるケースでは同

性愛への恐怖が引き金になっている、と過去の臨床例から明らかになっ

ています

これはホモセクシュアルの志向があるというものではなく、「もし自分がホ

モセクシュアルだったらどうしよう」という恐れ、不安が原因です

テレビではお笑い芸人が同性愛ネタで笑いを取ったりしていますが、思春

期の少年にとって自分がホモセクシュアルであるかどうかは重大な問題

であり、決して冗談などではなく人生最大の危機なのです

そんな不安を拭い去りたい、きれいさっぱり流したいとの思いから頻繁に

手を洗う行動を繰り返すようになると考えられています

またドアのノブや電車の吊革など、他人が手で触れたであろうものに触れ

なくなります

ドアのノブや電車の吊革は男性のペニスを暗示するもであり、これに手を

触れるのは同性愛行為に当たるから、と無意識のうちに拒絶するためで

す。よって日常生活のさまざまな場面で困難に遭遇します

さて、彼の語るさまざまなエピソードの中で特に強調していたのが、学校

の教室内で後ろの席の生徒がくしゃみをし、鼻水が彼の背中にかかった

話でした

これは同性愛行為により背中に精液をかけられた状態を彼に暗示し、恐

怖を駆り立てるきっかけになったものです

しかし、だからといって彼は自分がホモセクシュアルではないかと疑いを抱

き悩んでいる、とは決して認めませんし、ほのめかしもしません

おそらくはそれ以前にも彼が同性愛に関する恐怖を味わう羽目になったエ

ピソードがあると推測されるのですが、頑なに話そうとはしませんでした

むしろ話が同性愛に関する方向へ流れるのを極端に警戒し、不機嫌にな

るのです

ですから彼の前で指で鼻を掻くという行為は同性愛行為へ誘い込もうとす

るサインだと彼が無意識のうちに理解し、怒りだしたのです

鼻はしばしば男性のペニスにたとえられ、鼻を掻く行為はペニスをもてあそ

ぶ暗示、という解釈に結びつくからです

彼の怒りによって、彼の抱えている問題が同性愛への恐怖だと確信しまし

た。それまで彼は自身の口からはけしてホモセクシュアルへの懸念は口に

せず、ただ繰り返し手を洗わずにはいられない自分の行動に困惑している

と言うばかりでした

ブログの最初の日に、「認識されたいという欲望は、それがきちんと認識さ

れるまでそれをそのまま保持することによって、断固としてその欲望を支配

する」というラカンのことばを引用しました

つまり粗雑に解釈すると、同性愛に関する恐怖は、その恐怖の意味が与え

るもの(何か)がそれと認識されるまで、彼を呪縛し続けるのです

ですから「頻繁に手を洗う行為の原因は同性愛への恐怖に由来するもので

すよ」と第三者が指摘しても、彼がその解釈を拒絶する限り問題は解決しま

せん

おそらくは彼が決して語ろうとしない、過去に同性愛への恐怖を植えつけた

重要な出来事を意識の上に引き出し(それがきちんと認識されるまで)、不

安が不安でなくなるよう決着がつくまでは

その決着をつけるのは医師でもカウンセラーでも精神分析家でもなく、彼

自身です

(関連記事)
同性愛者ストーカー殺人を考える
http://05448081.at.webry.info/201305/article_31.html
少年愛と性犯罪の境界
http://05448081.at.webry.info/201109/article_50.html
同性愛排除で揺れる米ボーイスカウト連盟
http://05448081.at.webry.info/201305/article_26.html
女装して女湯に入り逮捕される事件を考える
http://05448081.at.webry.info/201103/article_15.html
看護師4人による保険金殺人事件を考える
http://05448081.at.webry.info/201002/article_40.html
看護師4人による保険金殺人事件を考える2 同性愛
http://05448081.at.webry.info/201010/article_16.html




強迫の精神病理と治療
金剛出版

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ