取手バス襲撃事件5 殺意を認める

昨年12月17日、JR取手駅前でバスの乗客に刃物で斬りつけ逮捕された斎藤勇太容疑者について、5度目の言及になります
逮捕当時殺意を否定していた斎藤容疑者ですが、「人を殺すつもりで用意した包丁で女子高生らに切りつけた」と殺意を認める供述を始めたそうです


茨城県警によると、斎藤容疑者は高校を卒業した後、半年ほど予備校に通った。だが大学には進まず、10回ほど職を変える。3年前に母親を亡くし、年金暮らしの父と同居していたという。昨年、工場との契約が切れた後は職に就かず、自宅にこもっていた。
県警の捜索時、部屋にはテレビやパソコンといった、外界とつながる道具が一切なかった。高校時代に好きだったという本も一冊もなく、友人、知人とつながる携帯電話も持っていなかった。
取手駅から約9キロ離れた同県守谷市内に、容疑者の自宅はある。事件の2カ月前、近所の60代女性が会っていた。
髪を肩まで伸ばし、ぶかぶかの部屋着姿だった。一言も発しない。「中学生のころと、ずいぶん変わっちゃったな」と感じた。女性が何より驚いたのは、まったく表情が無かったことだった。
つながりを断った1年2カ月について、斎藤容疑者は何も語っていない。事件の動機についても、弁護士に「表現しづらい」と話している。
工場の元上司は思う。ひとりが好きなのだと思っていたが、実は違っていたのかもしれない。してやれることがあったんじゃないか。「でも、子どもたちを傷つけたのは許せない。しかりつけたい」
弁護士を通じ、元上司がそう語っているのを知った斎藤容疑者は、こうつぶやいたという。「そんなふうに思ってくれている人がいるんだ」
(朝日新聞の記事から引用)


事件は精神疾患によるものではなく、逆恨みによる無差別殺人を企図して失敗した(不幸中の幸いで死者が出なかった)ものと見るのが妥当でしょう
繰り返し述べていますが、秋葉原で17人を殺傷した加藤智大被告の場合、「派遣切りに遭った若者の悲劇」だとメディアが決めつけ、一部のジャーナリストや作家がそれに便乗して大騒ぎになりした。加藤智大被告を「怒れる若者」の代表に祭り上げようとしたのです
しかし、加藤智則被告の犯行の動機が「掲示板を荒らされたから」であり、「モテない自分が嫌になった」であり、とても「派遣切りに遭った若者の悲劇」とは呼べないものだと判明し、加藤智則被告を受難者のごとく持ち上げていたジャーナリストや作家はこっそり逃げ出してしまいました
そんな出来事があったため、今回の事件で斎藤容疑者を受難者のごとく持ち上げようとするおバカなジャーナリスト、作家は出現しないようです
もちろん斎藤容疑者が殺意を認めたからといって、この事件の意味が明らかにされたと断定するのは時期尚早です
斎藤容疑者の中で、社会への逆恨みがどのように醸成され、無差別殺人を志向するに至ったのかが解き明かされなければなりません
当然、過去の無差別殺人(大阪教育大学付属池田小学校の事件や、上記の秋葉原歩行者天国襲撃事件)などと比較・検討されるのですが、過去の事件のパターンを当てはめて理解しようとするのは大きな間違いでしょう
過去の事件をモデルに解釈するというのは便利な手法なのですが、その便利さゆえに重大な読み誤りを犯す危険が存在します
事件は犯人の身の上に起きた「初めての体験」ですから、それを加藤智弘被告のケースと強引に重ね合わせ、「同じ動機で、同じ犯行」と決め付けるのは極めて乱暴なやり方です
もちろん斎藤容疑者が過去の事件の報道に接しており、その犯行を真似ようとした部分はあるのかもしれませんが、だからといって「模倣犯」だと決め付けるだけでは何も見えてきません
斎藤容疑者の場合、犯行は計画したものの駅まで行きながら実行に踏み切れず帰宅する行動を何度か繰り返しています
無差別殺人を企図しながら、実行に踏み切れないためらいが斎藤容疑者の中にあったのでしょう
何のためらいもなく小学生を刺し殺した池田小学校の事件とは違います
臨床家はこうした違いにこそ、注目しなければならないと自分は思います
「社会への逆恨み」と書くのは簡単ですが、それがどのような形の物語をなしているのか、人によ
ってさまざまであり、いかなる形で殺意を形成するに至るのかもまたまちまちです
高校卒業から転職、引き篭もり状態に到るまで、斎藤容疑者の心の中でどのような葛藤があったのか、何を望み何に絶望したのか、それが明かされる必要があります

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