論文紹介「魔法少女と原子爆弾の精子:アメリカの日本アニメ」

アニメ・マンガに関する英語で書かれた論文を紹介しているウェッブサイトがあり、その中からアナリー・ニューウィッツによる「魔法少女と原子爆弾の精子:アメリカの日本アニメ」(1995年)を紹介します
アナリー・ニューウィッツはカリフォルニア州立大学バークレー校で博士号を取得した人物で、サブカル系のライターとして活躍している人物のようです
以下のページに論文の要約が翻訳・紹介されています

「魔法少女と原子爆弾の精子: アメリカの日本アニメ」

執筆されたのが1995年ですから、取り上げているアニメーション作品も20世紀のものばかりであり、古典と呼ぶべき作品が考察の対象です
しかし、論者の視点は随分と偏っており、アメリカによる日本への原子爆弾投下やアメリカによる日本占領が日本のアニメーションに決定的な影響を与えている、と決めつけるのは何とも手前勝手な解釈でしょう
そして男性、女性という性別からくる二元論的な思考も問題です
「男性=征服者、植民地化を実行する者」と「女性=征服される者、植民地化を受ける者」という定義の上で論考を進めたところでどこかに辿り着けるとは思えませんし、何か有意義な結論が導き出せるとも思えません

自分の能力を隠さなければならない魔法少女が登場するタイプのロマンティック・コメディは、フェミニズムの影響力を考えると現在のアメリカでは作られるとは思えない。しかし実はそれ故にアメリカのファンたちはこのジャンルのアニメを楽しんでいるのだ。ファンたちが楽しんでいるのはそのジャンルの男女関係の描き方であり、その描き方は女性が男性に従属する性であることを前提とするものである。

「女性が男性に従属する性であることを前提とするもの」だとの解釈が極めて一般的な理解なのかもしれませんが、だからといって思春期の男女の関係を支配と従属という二元論で説明するのは無理でしょう
従属し征服されるはずの魔法少女たちはアニメの中では結構活発であり、クリスマスやバレンタインデーといったイベントで空回りするほど行動的です
魔法少女が思いを寄せる男性に告白しようとして邪魔されたり、思いを伝えられなかったりするのは恋愛の成就=ドラマの終わりをできるだけ先送りするためですし、告白の一歩手前まで行っては振り出しに戻るのも、そこへ至るプロセスを視聴者に楽しんでもらうためです
それを支配と従属、征服と被征服で説明してどうなるのでしょう

一般的に「男性と男性に従属する性としての女性の関係は、帝国主義的な関係性を持つ支配する国と支配される国との関係に酷似している」と言われるが、それは『らんま1/2』でらんまが何故女性化するのかだけでなく、中国の服装をしている理由も明らかにする。中国は20世紀に日本の帝国軍によって侵略、占領された歴史を持つからだ。つまりらんまの女性化は彼の中国的アイデンティティと関係しているのだ。

この指摘には原作者もびっくりでしょう。らんまの女性化はそれが面白かろうと作者が考えたからであり、中国的なアイデンティティとは何の関係もありません
日本の漫画家は人種・民族という観念には甚だ疎く、鈍感だったりします。中国人女性といえばお約束でチャイナドレスを着せ、中国拳法の使い手だと設定するように。そして外人といえば金髪碧眼の容姿を登場させるのもお約束であり、それ以上の深い考慮など特に存在しないと言えます
日本の漫画やアニメでユダヤ人とアイルランド系白人を描き分けたりはしませんし、その必要を考慮することもありません
人種問題に対する鈍感さこそ、日本のアニメがアメリカで好まれる理由だとアナリー・ニューウィッツは指摘しています

多文化国家アメリカのアニメファンたちは自国を暗示すると思われる多文化主義を否定的に描くアニメを日本人と同じように楽しめるのは何故か?その理由はまさにアニメがアメリカ文化を批判する視点を持っているからである。多くのファンが著者に語ったところによると「ポリティカル・コレクトネス(政治的公平性)」がアニメに欠けているためにアニメを見るのが楽しいということだ。つまりアメリカの視聴者は常に政治的に公平であるよう求められ、マイノリティーに対して罪悪感を持ち続けなければいけない。しかしもともと政治的公平性を求められていないアニメを見ている間はその罪悪感から逃避できるのだ。
つまり現代のアメリカ大衆文化に見る人種的、性的アイデンティティの表象に不満のあるアメリカ人ファンに日本アニメはアピールしているのである。

まことに大雑把な結論です
それではアナリー・ニューウィッツが昨今の日本のアニメから何を感じるのでしょう?
最近の作品で魔法少女絡みだと「カンピオーネ」があります。神殺しの魔王となった男子高校生を主人公に、周囲を魔女や巫女といった美少女が取り巻くハーレム展開のアニメであり、「美女を幾人も侍らせるハーレムこそ男のロマン」と言わんばかりの作品です

Campione PV



どの女性も主人公に一途な思いを寄せる設定であって、他の男に目もくれません
他方で主人公はどの女性にもやさしく接していますが、恋愛対象を1人に絞りきれない優柔不断な人物です。果たしてこれが現在の視聴者の願望なのでしょうか?
結局のところ、ジェンダーとか男女機会均等なんちゃらなど関係なしに、「モテモテの主人公に感情移入して美少女をとっかえひっかえできる快感」だけを売りにしたアニメへと退化しているようにしか思えません
社会学者ならこれを現代社会の病理だとか、男性性が脅かされているがゆえにこんなアニメが作られるのだとか説明するのでしょう
上記のウェッブサイトには他にも興味深い論文が紹介されていますので、関心のある方は一読下さい

アニメ・マンガに関する英語で書かれた論文

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