学習塾殺人事件を考える4 6年生女児を殺した塾講師

先日取り上げた草薙厚子の記事、「新潟少女殺害事件はなぜ防げなかったのか」に触発され、2005年12月に小学6年生の女子児童が殺害された学習塾「京進宇治神明校」の事件を振り返ってみようと思います
「事件を防げなかったのか」との視点に立てば、塾講師であったH(同志社大法学部の学生)の事件前のさまざまな問題行動を看過していた、塾側の管理体制に問題があったと指摘できます
しかし、Hは履歴書に犯罪歴(強盗事件等の前科あり)を記入せず、偽っていたという事実もあり、塾側だけを一方的に責めるのは酷な気もしますが、アルバイト講師を採用したら簡単な研修だけして放任していた以上、批判されるのは当然です。塾側は民事訴訟で敗訴し、約9900万円の賠償をしています
さて、事件の判決(一審京都地裁、二審大阪高裁)を踏まえ、事件を考えてみましょう


2006年(平成18年)2月20日、京都地裁(氷室眞裁判長)で初公判が開かれた。萩野は罪状認否で「すべて間違いありません」と起訴事実を認め、謝罪した。
検察側は冒頭陳述で、学習塾での指導をめぐり2人の関係が事件前年の2004年(平成16年)夏ころから悪化していたことをあげ、「紗也乃さんの言動などから一方的に不信感と憎しみを募らせた」と動機を指摘。凶器の包丁を購入した2005年(平成17年)12月2日(事件8日前)の直前に明確な殺意が芽生えたとし、「紗也乃さんの『キモイ』という言葉が頭から離れず、裏切られ、恩をあだで返されたと思いこんだ」などと事件当時の精神状態を明らかにした。その上で、計画的な犯行と具体的な供述内容などから、萩野に完全責任能力があったと主張した。
これに対して弁護側も冒頭陳述し、「萩野被告は前年11月下旬から『(紗也乃さんが)両手で剣を持って突き上げてくる』という妄想に支配されており、犯行はそれに突き動かされた結果」などと反論。萩野が事件当時、心神喪失か心神耗弱状態だったと指摘し、無罪または減刑を求めた。
2007年(平成19年)3月6日、京都地裁で判決公判が開かれた。氷室真裁判長は、萩野の完全な責任能力を認めた上で「本来生徒を守るべき講師が教え子を殺害した特異な事件で、社会的影響の大きさは看過できないが、犯行直後に自ら110番し、自首が成立する」と述べ、懲役18年(求刑・無期懲役)を言い渡した。
裁判長は弁護側の求めで地裁が実施した精神鑑定に基づき、被告が「精神病様状態」にあった局面はあったと認定。また、一時的な精神状態の悪化により、事件の8日前に自宅で被害者の像が見えたことから、像を消すために犯行を思いついたとした。 一方、萩野が犯行直前まで大学の授業を受け、塾での仕事も支障なくこなしていた。凶器を用意し、監視カメラのコンセントを抜くなど周到な準備をしていたことなどを挙げ、「非常に計画性の高い犯行」と指摘。「精神病様状態」は恒常的なものではないとし、「犯行当時、心神耗弱だった」とする弁護側の主張を退けた。その上で犯行について「余りに残忍で執拗。凄惨さは筆舌に尽くしがたく、極めて悪質」と述べた。
量刑の理由については、アスペルガー症候群でストレスに弱い被告が、「精神病様状態」もあったという経緯の中で犯行に及んだ。自ら犯行直後に110番通報しており、自首が成立する。殺害の事実を認め、被告なりに反省を深めようとしているなどと説明した。
3月19日、京都地検は懲役18年を言い渡した京都地裁判決を不服として控訴した。翌20日、弁護側も京都地裁判決を不服として控訴した。


2009年(平成21年)3月24日、大阪高裁は萩野裕に対し、懲役18年とした1審・京都地裁判決を破棄し、懲役15年を言い渡した。
的場純男裁判長は「犯行当時、被告は心神耗弱の状態だったとみるのが相当で、完全責任能力を認定した1審判決は是認できない」と述べた。控訴審では「犯行時、幻覚妄想状態に陥っていた」とする再鑑定を踏まえ、「アスペルガー症候群と著しい幻覚妄想の影響により、善悪を判断して行動を制御する能力が著しく減退した心神耗弱の状態だった」と認定し、量刑理由で「塾講師として塾生を保護すべき立場にあった被告が殺人者にひょう変した凶悪犯罪」と指弾する一方、「反省も深めている」などと述べた。
4月7日、上告期限となるこの日までに検察側、被告側ともに上告しなかったため、大阪高裁での懲役15年が確定した。


検察が無期懲役を求刑したのに対し、京都地裁の判断は懲役18年の判決でした。Hは被害者を殺害後、自ら110番通報していますので自首が認められ減刑されるとしても、無期懲役が懲役18年になるのは疑問です。心神耗弱状態ではなく完全に責任能力があったと裁判官は判断したものの、量刑を割り引く必要性を感じたのでしょう。精神病様状態とは随分と曖昧な表現ですが、Hがアスペルガー症候群であることを汲んだ上で懲役18年という判決を下したと解釈できます
ですが、二審の大阪高裁は責任能力が減退した心神耗弱状態にあったと判断し、懲役15年と割り引いた判決を下しました
この辺りは裁判のテクニカルな問題であり、Hがなぜ「小学6年生の女児を殺さなければならない」とまで思い詰めたかという、事件の本質部分とは関係ありません
逮捕直後、Hは「口論になった」、「日頃から相性が悪く、2人きりになって 『あっちへ行って』と言われてかっとなった」などと供述し、発作的に殺害したかのように説明しています。しかし、事前に凶器の包丁を用意したり、教室の監視カメラのコンセントを抜くなど、周到な計画の上で犯行をなしており、明確な殺意を抱いていたのは明らかです
被害者とHの間に何があったのか、検索しても明快な犯行動機は分かりません
インターネットに書き込まれた情報(裏付けなし)によれば、Hは中学生の英語の授業とは割と厳格に授業を行い、小学生の国語の授業では雑談ばかりだった(長崎で小学生が同級生を刃物で殺害した事件の話などしていた)とされ、そんな授業を被害者は嫌い、Hの国語の授業を受けなくなったのではないか、と推測されます
塾の退屈な授業にうんざりしていた小学生にはそうしたネタ話はウケたのかもしれませんが、嫌悪感を示す生徒のいたのでしょう
ゆえに「キモイ」とか「うざい」と言われ、敬遠されるに至り、Hは自尊心を傷つけられ、敵意を抱いたとの解釈もできます
ですが、公判の様子を伝える報道の中には被害児童に怖れを抱き(被害児童から攻撃されていると思い込むようになり)、彼女を殺害するしかないと決断した、と書いているものもあります
小学6年生の女児に怖れを抱くというのは理解しがたい話ですが、憎悪を募らせて殺害に至った説よりも、恐怖におののき身を守るためには彼女を殺すしかないと思い詰めた説の方が自然ではないか、と自分は感じます
家の中では父母に暴力をふるい、王様のように振る舞っていたHですが、内面は脆く、6年生女子の軽蔑の眼差しにも怯えうろたえるほど弱弱しかったのかもしれません。加えて、どう対処すればよいかHには分からず、被害妄想ばかり募らせていったと解釈できます
実際にどうであったのか、服役して頭が冷えたHの思うところを訊いてみたいものです
懲役15年ですから、もう仮釈放で出所しているのかもしれません

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