愛知中3刺殺事件を考える いじめの訴え隠蔽

前日に引き続き、愛知県の中学校で男子生徒が同学年の生徒を包丁で刺殺した事件について取り上げます
当初、殺害した生徒も殺害された生徒も学校内で問題を起こしておらず、2人の間にトラブルもなかったと報じられていました。学校側がメディアにそうアナウンスしていたわけです
しかし、ここにきて逮捕された男子生徒が修学旅行に禁止されているスマートフォンを持参し、指導を受けた件や、殺害した生徒からいじめを受けていると訴えていた件が明らかになってきました。学校側は隠蔽したわけではないと説明していますが、いじめや体罰、生徒の自殺など不祥事が明るみに出ると不都合な事実を隠蔽するのが学校の常です
こうした学校の体質を批判するコラムを鈴木涼美が「週刊SPA!」に書いていますので取り上げます。鈴木涼美は法政大学名誉教授鈴木晶の娘で、東大大学院修士課程を修了後、日本経済新聞記者をしていた人物です。なお、高校生時代はブルセラショップにパンツを売ったり、大学生時代にはアダルトビデオにも出演していたとして話題になりました
なかなか鋭い視点で社会批評も書いています


中3同級生殺人から考える、「学校」という閉鎖空間への絶望
(前略)
愛知県の中学校で、3年生の男子生徒が包丁で腹部を刺され、死亡する事件があった。逮捕された同学年の生徒は犯行を認めているものの、詳しい動機などはいまだ取り調べの最中だ。
一部では「嫌な思いをした」と、いじめがあったことを示唆する供述が報道されているが、「嫌な思いをした」ことが殺人の強い動機にまで発展するには大きな飛躍があるはずで、その飛躍を説明するものが、今後供述から明らかになるのか、周辺取材で推察されていくのか、あるいは闇の中にとどまるのかはわからない。
でもおそらく全てが教師のせいでも、全てが生徒同士のトラブルのせいでも、全てが親のせいでもないのではないか、と個人的には思う。
中高生による殺傷事件や暴力事件は近年顕著に増加したわけではなく、いつの時代にも存在したし、顕在化していなかった事件を思えば統計上の増減もそう信頼度が高いものでもないだろう。それでも、学校という場所への絶望や閉塞感がより強くなっている、という感覚はある。
スタンフォード大の心理学者フィリップ・ジンバルドーらが著した『男子劣化社会』には、「少年たちが学校から脱落しているのではない。学校制度が少年たちを脱落させているのだ」という記述があり、その根拠として成績偏重な傾向、仕事に忙しい親の無関心や逆に親の過度な期待、休み時間の減少などを挙げるが、それらの一部はより極端な形で日本の学校にも当てはまる。
教育政策の難しいのは、結果を検証するまで実に時間がかかることとはいえ、成績順位や体育の競走結果の発表を控えるなど、近年注目されてきた政策が著しい成果に結びついているかと問われれば多くの人が疑問を持つのではないか。
今回の事件のあった学校では全校集会で校長による「この中学校は一つの家族のようなものだと思っている」という言葉があったという。教育行政や現場の教員たちに責任をなすりつけるのはアンフェアだが、かつて社会学者の宮台真司らが指摘した「最大の敵は、年長世代の『学校の思い出』である」という言葉を想起すると、校長の言葉に危うさを感じるのも事実だ。
何より平等に重きを置いた日本の学校制度の抜本的な見直しを期待すると同時に、取り急ぎ、学校自体をあまりに苦痛なら行かなくてもいい場所とする意識改革と、学校以外の身の寄せ場所の整備が、学力より平等より制度より、命を守るためには必要な気がする。


校長の「この中学校は一つの家族のようなものだと思っている」発言ですが、当然ながら校長本人は良い事を言ってるつもりであり、鈴木涼美の書くところの問題意識などまったく脳裏にないのでしょう
「家族は一体であり、美しくあらねばならない」という前提があるからこそ、いじめの訴えを隠蔽するなど不都合な事実を表に出さないようにしているわけです(同時に、校長らの保身もあります)
これがなんとも理解できない部分です。生徒や教師に問題があるなら表に出せばよいのであり、学校とそこに所属する教師がすべてを解決するべく義務付けられているわけではないはず。外部の力を借りて解決を模索してもよいのでは?
しかし、日本の学校教育の仕組みはすべてを学校が解決するもの、と決めてしまった感がありますし、実際そのように運営されています
問題のある生徒を指導できないとなれば、教師の指導力不足だと言われるのです
殺人事件の方に話を戻して、何が何でも殺害しなければ解決できないほど深刻ないじめが繰り返されていた、という風には思えない事件ですが、加害者である男子生徒がどう受け止めていたのかを想像し、考慮しなくてはなりません
殺害された生徒は野球部員でクラスのリーダー的存在で、生徒会長にも立候補していたと報じられていますので、教師の側からすれば理想的な生徒と映っていたのでしょう。しかし、教師の把握できないところで、2人の間に何があったのかが重要です
校長以下、教師らは学校内の現実と向き合ってこなかったのではないか、という気がします

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