愛知中3刺殺事件を考える 「サインを見逃すな」論の無謀

愛知県弥富市の中学生刺殺事件で、各メディアは教育専門家、心理学者、大学教授らを動員し、「サインを見逃すな」とか「シグナルをきちんと受け止めるべき」との主張を展開しています
当ブログでは他の事件の際にも述べたように、この「サインを見逃すな」論はそもそも無理があり、実現不可能だと指摘しました
例えば野球におけるサインプレーは、選手や監督、コーチがあらかじめサインを決めておき、それを見てしかるべきプレーをするよう訓練を重ねて実現するものです
しかし、中学生が学校や家庭で悩みを抱え心労を重ねているからAというサインを出しているとか、Bというサインを出しているとしても、家族や教師には理解できないのであり、何も伝わりません。教師も親もあらかじめサインを取り決めし、確認し、それを見て判断する訓練をしていないのですから
なので専門家たちが「サインを見逃すな」とか「シグナルを受け止めろ」と警鐘を鳴らしても、実効性は乏しいのです


愛知県弥富市の市立中学校で3年生の男子生徒(14)が刺殺された事件。殺人容疑で送検された同学年の少年(14)は「嫌なことが重なった」などと供述しているが、事件を未然に防ぐことはできなかったのか。元中学教員でいじめ問題などに詳しい竹内和雄・兵庫県立大准教授(生徒指導論)は「社会全体で生徒の小さな声をキャッチできるシステム作りが必要」と指摘している。
今の学校現場は引き継がれているようで、引き継がれていないことも多い。教員時代に中学3年生同士のケンカ指導をした際に、小学1年生の時のトラブルが尾を引いていたこともあった。周囲の生徒に聞くと2人は小学1年生以来、有名な犬猿の仲らしいのだが、私たち教員は知らなかった。いつ、何があったのかをデジタル記録で残しながら、常に教員みんなが把握して、クラス分けだけでなく、日々の生活を見ていかないといけない。
そうした上でどれだけ日々の変化に敏感になれるか、そうした変化を大人が気づくことができるかだと思う。昔はもっと教員と生徒が関わる、ある意味「無駄な」時間もあったから、「あいつ怒っとんで」みたいな話を言ってくれる子もいた。でも今の教員は忙しくなって余裕がない。生徒の小さな声を教師がしっかりとキャッチできるような学校にしていくことが大事だろう。
(毎日新聞の記事から引用)


愛知県弥富市の市立中で起きた刺殺事件を受け、県教育委員会は26日、県内の小中学校や市町村教委に対し、児童生徒の発するどんなサインも見逃さないよう呼びかける通知を出した。
通知は、①子どもたちに命の大切さを自覚させ、人として許されないことは絶対にしないよう徹底する②児童生徒の発するどんなサインも見逃すことなく学校全体で情報を共有し、問題行動の未然防止や早期発見に努める③刃物などの管理や取り扱いについて指導を徹底する――の3点。その上で、教師をはじめ関係者一人一人が問題の重大性を強く認識し、切実な問題として向き合うよう求めている。
(毎日新聞の記事から引用)


TBSテレビの「ひるおび!」は30日、愛知県弥富市で24日に起きた中3刺殺事件について特集。バルセロナ五輪柔道女子銀メダリストでスポーツ社会学者の溝口紀子さん(50)は「(加害少年は)サインを出してたのに、学校がちゃんと受け止めなかった」と指摘した。
事件をめぐり、市教委は29日に会見。学校側が当初、「いじめやトラブルは把握していない」としていた件について、2月に行ったアンケートで「加害生徒が『いじめられたことがありますか?』の問いに『ある』に○を付けていたが、学校が市教委に報告していなかった」ことが明らかになった。
番組は、同市ではいじめの訴えがあった事案は逐一、市教委に報告することになっていたと紹介した。しかし校長はその後の指導で「解決している」と判断し、「解決した事案まで報告が必要だとは考えていなかった」とコメントしたことを伝えた。
これに溝口さんは「逮捕少年はもちろん悪いんですけども、そもそもサインを出していたのに大人である学校がちゃんとそのサインをしっかり受け止めなかった。その初動や対応が本当に心配」と指摘した。
(中日スポーツの記事から引用)


愛知県教育委員会の「児童生徒の発するどんなサインも見逃すな」との通知は現場への無茶振りでしょう。結局、現場の教師にすべてを押し付けただけ、です
教師が時間を割いて個別面談をやったとしても、生徒が悩みを打ち明けたりいじめ被害を申し出るとは限らないのであり、そこに難しさがあります
また、いじめに関するアンケート調査というものを各学校が実施しているわけですが、それだけアンケート結果を汲み上げ対処しているのか不明確です。単に「アンケート調査を実施しろ」と教育委員会から指示されているからやっている、と形骸化しているのでは?
現実問題として30人以上の生徒を抱えた学級担任が1人1人の生徒と関わる時間を確保するのには無理があり、仕組みを変えるしかありません
スクールカウンセラーを配置しても、児童生徒にとっては所詮部外者であり、馴染みのない大人にペラペラと悩みを打ち明けたりはしないでしょう(中にはスクールカウンセラーを職員会議に出席させず、発言権も与えない学校もあります。不登校の生徒に対処する便利屋扱いとか)
教育委員会にしろ文部科学省にしろ、学校教育の仕組みを変える気はさらさらないわけで、いつまで経っても問題は解決しません
戦後から長く続いた教育委員会方式を廃止し、教育行政を教員以外の人間がチェックし改善を求める仕組みを導入する必要があります。教育行政を教育委員会と教員が牛耳り、外部の声に耳を貸さない現在の仕組みがさまざまな問題を生む温床となっているのですから

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